国内外のマーケティング担当者や広告関係者が一堂に会したイベント「ad:tech tokyo」。2日目の9月3日には、“tokyo innovation”と題したパネルディスカッションで、世界的にも高く評価され、注目を集める日本人クリエイター4名が、それぞれの代表作品を紹介しながら、その制作秘話や舞台裏を語った。
モデレーターを務めたのは、電通取締役常務執行役員の杉山恒太郎氏。杉山氏は「表現の場がインターネット上であっても、広告はコンテンツとして魅力的、よりソーシャルで役に立つものでなければならない。その本質的な価値について、今回集まってもらった4人にそれぞれの作品を通して語ってもらいたい。インターネット広告の世界における日本を代表するトップクリエイター4人が一堂に集まるこのような機会は、今後もおそらくないだろう」と挨拶した。
トップバッターとして、プレゼンテーションを行ったのは、中村勇吾氏。NECの環境サイト「エコトノハ」でカンヌ国際広告フェスティバルグランプリを受賞したのをはじめ、国内外で数多くの賞を獲得しているトップクリエイターのひとりだ。
中村氏は自身の最近の作品として、モリサワの「FONT PARK」を紹介。このサイトは、ウェブ上で文字のフォントを分解し、位置を組み替えたり、拡大縮小などにより、絵を作ることができるというサービス。中村氏は「この『FONT PARK』では、ただ単に文字を解体し、作品化するだけでなく、作業のログをプログラムで自動的にアニメーションとして生成されるようなエンジンも作っている。
制作のプロセスがアニメーションとしてもおもしろく見えるように、インターフェースは「Illustrator」や「Photoshop」のようないわゆるモードを切り替えて操作するものではなく、マウスを使った手の動きだけで直感的に操作できる“ワンハンドインターフェース”と呼ばれるインターフェースを採用した」と説明した。
続いて、2007年から2009年にかけてカンヌ国際広告祭において日本人最多の5つの金賞を獲得するなど、多数の受賞歴を持つ伊藤直樹氏は、2009年のカンヌ国際広告祭でTVCM部門で金賞を獲得した作品「LOVE DISTANCE」を紹介。
伊藤氏は「この作品は、東京と福岡で遠距離恋愛中のカップルを1カ月間追いかけて撮影したもの。テレビの広告というのは、通常15秒とか30秒と時間が限られているものだと思われているが、これはそういうユーザーの意識を変えることに挑戦した」と、作品に込めた思いを語った。
時報のリズムに合わせて、ユニクロの服を着た女の子たちが無表情で踊り続けるユニクロのウェブ広告「UNIQLOCK(ユニクロック)」。田中耕一郎氏はこの作品でカンヌ国際広告祭など2008年の世界の三大広告祭におけるすべてのインターネット部門を制覇し、注目を集めた。
「理屈を超えてソーシャルメディアでどうやったら情報に興味を持ってもらえるかを考えた。それを“ダンス+時計”というノンバーバルな身体表現にすることで、人々がずっと見続けたいと思う興味を引き出すことに成功した」(田中氏)
また田中氏は、「通常、広告の世界では“早分かり”しなければならないというのがあるが、これはそれを逆手にとって興味を引き出すことができた」と、作品が人々を惹き付けた理由を分析した。
着うたの携帯電話向けプロモーション動画「Pair Movie」。この企画を仕掛けたのは、今回4人目のパネリストとして登場した、電通でコミュニケーション・デザイナー、クリエイティブ・ディレクターを務める岸勇希氏だ。
岸氏は「従来、プロモーションビデオやミュージッククリップというのはテレビで見るものという意識がある。しかし、この作品ではケータイで動画を見るという醍醐味を追求しなければならなかった」と説明。
「そこで気づいたのが、ケータイというのはしばしばその場のコミュニケーションを遮断するということ。そこで、リアルなコミュニケーションを創造するコンテンツとして、2台の端末に分割した画面を、端末を並べて一緒に見るという手法に行き当たった」と、同作品が生まれた秘話を明かした。
モデレーター役の杉山氏は、4人のパネリストによるプレゼンテーションを終え、「デジタル広告は、テクノロジーという世界共通の言語を持っているところがテレビの時代とは違い、世界の人々が共感を持ってくれる大きな可能性を持っている。しかし、今回紹介された作品は、いずれも実用的なセンスを追求した日本的な表現が際立っているところが共通している」と総括。さらに「世界の広告をイノベーションしているこうしたクリエイターが東京にいるというのは素晴らしいこと。今日この場でそれを認識して帰ってほしい」と語り、パネルディスカッションを締めくくった。
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