人気アニメ「機動戦士ガンダム」の監督として知られ、歯に衣着せぬ物言いでも知られるアニメーション監督・原作者の富野由悠季氏が9月2日、パシフィコ横浜で開催中のゲーム開発者向けイベント「CESA Developers Conference(CEDEC) 2009」の基調講演に登場。「原理主義者に陥っては次のことを生みだせないが、原理原則でものを考えるべき」と、ゲーム業界の未来を担う開発者たちにエールを送った。
富野氏は、ゲーム業界が生まれてから30年程度経っていることについて、「30年というのは、業態に限らず業界が固定する時期。いろいろな部分で“動脈硬化”が起きて、明日が見えなくなる時期だ」と指摘。ゲーム業界より長い歴史を持つアニメ業界の人間として、語れることがあるのではないかと考えたのが、今回講演を引き受けた理由だと語る。
次の30年、50年をどうするかと考えたときに、こうしたら良いというものはないと富野氏は言う。「もしあれば、人前で喋らずにすでにやっている」。ただし、考え方の手順として「原理原則に常に立ち戻って考え、次の5年、10年先にも対応できる対応できるコンテンツ、つまり方向性を示した作品の形を考える」のが基本だとした。
たとえばゲームの場合、「ゲームの根本はどこかと考えると、僕にとっては“悪”です」と富野氏。
「ゲームは日常生活を支える行為ではない。まして、電子ツールを使ったものはエコでも何でもなく、エネルギーを消費しているだけ。10億人規模でハードウェアを売ること自体が悪だ。我々も『あれだけガンダムのプラモデルを売ったらエコではない』と言われたらその通りで、その矛盾にどれだけ整合性を持たせられるか。悪ではない、省エネで、気晴らしになる程度のゲームを開発しないといけなくなるだろう」
「かつて大宅壮一はテレビを見すぎる日本人を『一億総白痴化』と言ったが、ゲーム人口の拡大を思うと、(ゲーム開発は)地球全体を総白痴化するための行為でしかない。30億人の時間を無駄にするということは、生活を支える時間を奪っているということであり、ゲーム人口がさらに倍になるということは、地球を滅ぼす手助けをしているんだぞ、と言える」
富野氏がここまで辛口なことを言うのは、「そうではない、と言い切れるものをつくってほしい」(富野氏)からだ。「人間には知恵があると信じている。時間を消費せず、欲求を満たすものがあったら見せて欲しい」
「このくらい生意気な年寄りがいて、『お前は本当にわかってない。俺がやってやる』という人がでてきて欲しい。人類が歴史を作っていくというのはそういうことだ」
ゲーム自体は、遊びごとであると同時に、軍事的な戦術を考える上での図上演習でもあったと富野氏は指摘する。「ゲームの始まりを絶えず思い出して欲しい。何をもってプレーヤーは楽しんでくれるのか、消費する時間をもったいないと思わなかったのか。そうすると、次のテーマはおのずとみつかるだろう」
もっとも、富野氏自身、「次のテーマなど、本当はほとんど思いつかない。もし思いついていればテトリスを超えるゲームがとっくに出てきており、出てこないからこそゲーム業界は大騒ぎしている」とも考えており、新しいものを生み出す難しさも承知している。
「『あのジジイを黙らせてやる』と、ずっと考えてやって下さい。そうしたら突破口が見えてくるかもしれない。目標は徹底的に高いところにおいて下さい。そうしたら、達成できたことがたとえその100分の1でも、その時代のトップに立てるかもしれない。少なくとも、現在の自分に満足することがなくなる」
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