日本版“フェアユース”、権利者側は前向きを示すも慎重姿勢--第3回法制問題小委 - (page 2)

 弁護士や著作権関係の学術関係者、ジャーナリストなどで組織する「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(think C)」は、現在の法制度について「背景に著作権物がわずかに写りこんでいるだけで使用できないなど、権利者への悪影響が少ないと思われる利用の停滞・萎縮をもたらしている」と指摘。さらに「創作者・権利者と利用者の利益のバランスを考慮し、図書館や教育・福祉関連などの公益目的の利用についても社会的な利益を権利者側に還元するための仕組みをフェアユース規定導入と並行して検討すべき」など、フェアユース規定のあり方と方向性についての提言を発表した。

 一方、財団法人デジタルコンテンツ協会 法的環境整備委員会委員長で弁護士の大橋正春氏は、同委員会におけるこれまでの議論の経過を紹介。現行法制のもとでコンテンツ利用に萎縮効果が出ていることは理解しつつも、「米国ではフェアユース規定で処理されている問題を、同様の規定を有しない先進国ではどのように処理しているか。また、フェアユース規定の必要性が叫ばれているか、他の国の状況をもっと調査すべき」と、今後も慎重に検討していくことを求めた。

 また、ネットワーク流通と著作権制度協議会もフェアユース規定の導入には前向きだが、そのあり方には慎重姿勢だ。同協議会・権利制限の一般規定に関する分科会会長で弁護士の早稲田祐美子氏は「産業的・経済的側面からの議論だけでなく、文化の発展に寄与するという著作権法の目的、著作権法上の表現は個人の思想・表現の自由という憲法上の重要な権利と密接な関係を有している点も十分に考慮すべき」と意見。そのほか「フェアユース規定導入後は個別の案件については裁判による事後解決が主流になるだろうが、抽象的な概念規定のため、裁判所の解釈の範囲が大きくなり結論の予見性の低下や法的安定性を欠くおそれがある。また、裁判を遂行することについての創作者の精神的・経済的な負担は甚大で創作活動を低下させる可能性もある」と述べ、フェアユース規定導入にあたっては、これと同時に議論すべき事項や整備すべき制度があり、それらを解決せずして先行的に実施すべきではないと主張した。

 ヒアリング後に行われた質疑応答と委員による意見交換会では、東京大学大学院法学政治学研究科教授の大渕哲也氏が「フェアユースによって、具体的に新たに権利制限の対象となるのはどんなものがあるのかがイメージできなければわかりづらい」と質問し、ヒアリング参加者らが説明を行った。これに対し、同委員会で主査を務める一橋大学大学院教授の土肥和史氏が「フェアユース規定のいちばん大事なポイントは、今後の技術の発展で何が出てくるのかわからないということにある」と述べるたところ、「わからない状況でやるというのはいささか無理がある」(弁護士、中央大学法科大学院客員教授の松田政行氏)、「一般規定というのは本来そういうもの」(弁護士、東京大学名誉教授、明治大学教授の中山信弘氏)と問答が繰り返される場面もあった。

 このほか会合では、7月10日に公布され、国や地方自治体などが発信しているインターネット上の資料をを国立国会図書館において複製して収集することを可能にする「国立国会図書館法の一部を改正する法律」の概要について説明が行われた。

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