この6月6日から5日間にわたって米フロリダ州ハリウッドで開催された全米IR協会(NIRI)の年次大会。米国はもちろん、世界各地から1100人を超すIR関係者が参加した会場は熱気にあふれていた。多くのイベントのなかでも、今回、XBRL(双方向データを生み出すコンピュータ言語)を取り上げた企画が大きな関心を集めた。
例えば、「XBRL規則、テクノロジ、ソリューション」と題した分科会には、大手印刷RRドネリーや有力IR情報業者エドガー・オンライン、ナスダック証券取引所の担当者がパネラーとして登場し、現状と今後の見通しを盛んに論じたが、終了後もパネラーに次々と質問が続く光景が印象的だった。
また、企業のニュースリリース配信大手ビジネスワイヤによる「XBRL教育講座」では、「XBRLとは」といった入門的なトピックスから、「SECのXBRL関連規則」まで、現場のIR担当者が少なくとも知っておきたいXBRL関連のトピックが用意され、熱心なやり取りが繰り広げられた。
2008年5月、米証券取引委員会(SEC)はXBRLによる財務報告書の届出を義務とする規則案を発表した。これまでの印刷文書による開示から、XBRLによる開示文書を受け入れる方針が明らかになった。そこでは、まず手始めに、12月15日以降、時価総額が50億ドル超の企業(約500社)によるSECへの届出文書はXBRLによるとした。
具体的には年次報告書、四半期報告書が対象である。過年度分を含む財務諸表や注記もXBRLで表記するとなった。翌年は時価総額が50億ドル以下の企業にXBRLによる届出規則が適用となり、3年目には外国企業が対象となっていた。
60日間のパブリック・コメント期間が過ぎたころ、100年に1度の金融危機が市場を襲った。そして、この当初案が実施のめどにしていた12月15日を過ぎた12月18日、SECは当初のスケジュール案に修正を加えた上で、この規則を承認。年が明けた2009年1月30日に正式に発表した。
修正のポイントは、XBRLによる文書届出の開始を半年ばかり先送りしたことだ。6月15日以降に決算期末をむかえる報告書が対象となった。もう1つのポイントは、米国企業と米国以外の企業の区別をなくしたことだ。
当初の予定では、IFRS(国際会計基準)による外国企業はXBRL義務化3年目に対象になるとあり、2011年初めから実施される予定であったが、今回の修正で、米国会計基準(US-GAAP)による報告書を作成するかぎり、米国内の企業と同じ扱いとなった。
そのため、3月決算の日本企業の場合、2010年3月期の報告書から対象になる見込みだ。そして、3年目からはUS-GAAP ばかりでなくIFRSによる報告書もXBRL届出が義務化される対象になる。しかも、SECへの提出と同時に自社サイトに12カ月間、掲載しなければならないとした。
冒頭で紹介したNIRIの年次大会でのXBRLへの注目には、こうした経緯が背景にあったのだ。年次大会が終わると、数日でSECに対するXBRL届出が始まった。双方向データを生み出すコンピュータ言語のXBRLの採用で、SEC文書に始まる企業情報がどのように市場関係者に受け入れられるのか、とりわけ、投資家向けにどんな分析ソフトが登場するのか、IR関係者はその動向から目を離せない。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやまてつゆき)
大和総研・経営戦略研究所客員研究員。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)ほか。最近の論文に「ウェブ2.0時代に変貌するアニュアルリポート〜リアルからバーチャルに〜」(「広報会議」09年8月号)、「逆風の『海外IR』を再考する」(「月刊エネルギー」09年7月号)など。
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