「ドコモ動画」という言葉が初めて登場したのはほんの1年前。爆笑問題がCMに起用され「音楽、お笑い、映画・ドラマ、スポーツ、アニメ・ゲーム・グラビア・芸能、情報・バラエティなど300の動画が無料!」というコピーがさまざまなメディアに露出したのは2008年6月のことである。
それから1年。再度携帯電話市場夏の商戦期に登場したドコモ動画は、「BeeTV」という強力な武器を携え、携帯電話で動画を見るというモバイル利用シーンの定着を一気に加速させている。
まずはモバイル動画市場の成長を測る指標として、ここ1年間でのドコモポータルにおけるサイト数の増減を振り返ってみよう。ドコモ動画前、2008年1月時点では、いわゆる公式動画サイト(以下iメニュー動画サイト)は、83サイトで構成されていた。これらのサイトはかねてからモバイルで利用可能であった「500k着モーション」など、短尺のコンテンツを主に扱っているサイトも少なくはなかった。
その市場が同2008年末には146サイトに成長。新規加入サイト(他のジャンルからの移籍含む)は実に年間63にも及んだのだった。ところが、2009年に入り半年が経った6月現在でのサイト数は149。2009年に入ってからというもの新規サイトの参入はすっかり鳴りを潜めてしまったと言えるだろう。そんなある種ターニングポイントを迎えた時期とも言える2009年初夏。満を持して登場したのがBeeTVである。
このBeeTVに関する広告投下量は動画サイトとしてかつてないボリュームとなっており、テレビや街中でBeeTVという言葉を目にしない日はないほどだ。この効果により、再び今モバイル動画市場が注目されはじめている。本考察においてはBeeTVの登場も踏まえ、何故ここまでサイト数が増えたのか、モバイル市場との連動性など、モバイル動画市場を過去、現在、未来に分けてモバイル動画市場の歴史を紐解いた上で、今後の展望をみていきたい。
「動画サイトと言えば?」と質問され、浮かぶのは大抵YouTubeやニコニコ動画ではないだろうか。動画がここまで注目されるようになったのは、日本ではこの2つのサイトの功績が大きいことは言うまでもない。これらのサイトはいわゆる、数年前に良く耳にしたWEB2.0という考え方から生まれたCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)サイトだ。
サービスやコンテンツは、時間の経過と共に陳腐化するのが一般的で、市場競争原理により有料から無料へのプロセスを辿るものである。しかし、ネットで動画を視聴させるというビジネスモデルは、先に述べたCGMが市場の牽引役となったという経緯もあり、ユーザーにとってはどうしても「動画は無料で見られるもの」という先入観が付いて回ってしまっている。
この考え方はユーザーに深く浸透しており、2008年4月の弊社調査によると、「携帯動画を見る理由」という質問に対し、最も多かった回答がずばり「無料だから(約72%)」であった。次いで「好きな時に見られるから(約50%)」「定額制に入っているから(約45%)」という調査結果が続くことから、当時は非常に限られたユーザーしか興味を持たない市場であったことが分かる。
また、もう1つの特徴としては、利用者層にも偏りがあるように見受けられた。モバイル動画サイトの認知はどれくらいあったのか、という質問に対し、全体で約半数の人が「知っている」と答えており(図1)、年齢が上がるにつれてその認知度は下がっていき、女性より男性の方が、比較的認知度が高いという結果となった。
さらに、その認知経路について質問したところ(図2)、「家族・友人・知人のクチコミ」が約37%、「携帯の検索サイト」が約21%と、この2つの経路で半数を占める結果となっている。つまり、テレビなどの刷り込み型の媒体によって広くあまねく認知されたというよりも、ある程度モバイルを使いこなすことのできるユーザー、もしくは生活の中でそうしたユーザーと接点のある者を中心に認知されていたことがわかる。このことから2008年前半においては、モバイル動画コンテンツは万人向けのコンテンツというよりも、モバイルリテラシーの高いユーザーに認知されたコンテンツと言えた時期であった。
とはいえ、完全に有料のコンテンツが受け入れられなかったわけではない。無料ニーズが8割近く占める中、有料のモバイル動画を利用している意向を示したユーザーになぜ有料のモバイル動画サイトを使うのか聞いたところ、「ジャンルが豊富」「定額制に入っているから」「好きなタレント(キャラクター)の動画がある」からという理由がトップ3を占めた。さらに、有料・無料共にモバイル動画の利用シーンを尋ねたところ(図3)、「くつろいでいる時」が約70%、「就寝前」が約37%となり、比較的時間の都合がつき、リラックスできる時に見ていることが分かる。
また一方で、自宅外での利用シーンを聞いたところ(図4)、「公共交通機関での移動中」が約42%、「公共交通機関の待ち時間」が約38%と、自宅内と同じく、ある程度時間の都合がつく時に視聴するという傾向が強いことが分かった。
このように、当時であっても動画に対する利用意向や、利用スタイルはある程度明らかとなっており、こうしたユーザーをターゲット層としてビジネスチャンスを狙うプレイヤーも多く、この2008年上半期に動画ジャンルは約31サイト増となり、供給に加速がついた。
しかし、先に述べた通り、端末スペックやパケット定額制に加入しているなどの、一部のモバイルリテラシーの高いユーザーに限られたコンテンツとも考えられ、動画が有料であることに対し、慣れていないという心理状態からもiメニュー動画市場において、需給バランスが取れたとは言い難い過剰供給の時期でもあった。
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