川上、川中が健闘しているからといって、川下が健闘していないというわけではありません。実際、日本人デザイナーが世界中で活躍しているわけです。たとえば、パリコレでも日本人が一大勢力になっています。しかし、そのような方々はヨーロッパで活躍しているのがほとんどであって、かならずしも日本のアパレルの競争力向上に直接的に寄与しているわけではないようです。
最後にエンドユーザーである消費者の状況を見てみましょう。日本はポップカルチャーの聖地と世界中から認識されていますが、それはファッション領域でも同じであり、ストリートファッションを観察するために、欧米の高級ファッションメーカーも人を派遣したりしています。このように、ファッションではユーザーの水準はかなり高く、クリエイティブな使い方(コーディネイト)が創発されています。
とすると、特色のある川上、川中と、エンドユーザーである消費者を結び付けることでイノベーションが生まれるのではないかと、直観的に感ぜずにはいられません。
そういう意味では、ジャパンファッションウィークの一環として今年から始まった「SHINMAI(新米)クリエーターズ・プロジェクト」は面白い試みです。この企画は、日本のみならず世界の優秀な若手デザイナーにチャンスを与えることで、現在、抜け落ちている川下を埋めるだけでなく、日本の強みである素材(川上、川中)を無償提供し、さらには消費者へ直接アピールする場までを提供しようというものです。
日本の消費者は、多種多様で、センスがよく、さらに新しい物好きというのが特徴ですので、この企画は意外とハマるのではと期待しています。
一旦、こういう企画が成功すると、エンドユーザーである消費者の目線が、回りまわって日本の強みである川上、川中まで到達し、今度は、それにより改良された製品が消費者まで到達するという相互循環が生まれます。そうすれば、新製品の投入、実験、改良の場(テストベッド)としての日本の優位性を世界にアピールできるのではないでしょうか。
東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。
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