モバイルコンテンツ、2008年度の市場変化は「リッチ化」と「権利ビジネス化」 - (page 2)

?瀬一樹(ドコモ・ドットコム コンサルティング部チーフ)2009年05月12日 19時11分

リッチ化、権利ビジネス化が進むエンタメコンテンツ

 さて、ここからはコンテンツ別に2008年度の動きを振り返ってみたい。まずはモバイルコンテンツの代表格とも言える「音楽」「画像」「ゲーム」などのエンタメコンテンツについて昨今の変化を2点挙げるならば、「リッチ化」そして「権利ビジネス化」と言える。

 具体的には、端末機能と回線速度の向上、パケット料金のフラットレート化といった環境の変化を背景に「着信メロディ」「着うた」は、「着うたフル」や「動画」へ、「待受画像」は「きせかえツール」へ、「グリーティングメール」は「デコレーションメール」へと姿を変えた。また、新たな市場として登場した「電子書籍」も大きな市場に成長しつつある。

 こうした新たなコンテンツの伸張に伴って収益構造にも変化が見受けられ、利益の享受者がアグリゲーター(作品を電子化する権利を委託された者)からコンテンツホルダー(作品の権利を持つ者)へと移りつつあるように思われる。

 音楽コンテンツに関して言うならば、かつてモバイル音楽コンテンツ市場の主役であった着信メロディは、アグリゲーター各社が作曲者から借り受けた権利を元に制作を行なっていたため、利益の大部分をアグリゲーターが享受できていた。しかし、現在の着うた、着うたフルに関してはレコード原盤そのものを利用しているため、作曲者の他、歌手はもちろんのこと作詞家、演奏家に対しても著作権使用料の支払いを行なう必要がある。

 動画に関しては著作隣接権の保持者は更に多くなる。きせかえツールは配信事業者が少なかった黎明期には、動物の画像などが人気であったが、人気キャラクター、お笑い芸人、アーティスト関連のいわゆる版権コンテンツが充実するにつれ、売上の中心はそちらにシフトするようになった。そして新たに登場した電子書籍も出版社、作家の売上分配比率が高いコンテンツであると言える。

 以上のように、リッチ化に伴う新機能コンテンツの少なからずが、アグリゲーターにとっての利益率の低下を、そしてコンテンツホルダーにとっては新たな利益の獲得をもたらしていると言える。

 この傾向は今後も更に強くなるものと思われ、放送外収益の獲得を目指すテレビ局を始めとするコンテンツホルダーのモバイルコンテンツ業界への直接参入なども活発化するものと思われる。

 一方、モバイル発のオリジナルコンテンツも負けてはいない。08年度の大ヒットコンテンツとして挙げられるのは「糸通し」「チャリ走」などのワンボタンゲームや、女性向け恋愛ゲームサイトたちである。「糸通し」「チャリ走」は簡単な操作と高い中毒性が特徴で、モバイルの利用シーンに合致しており、女性向け恋愛ゲームサイトはプレイ時間制限やキャラクターからユーザーへのメール送信など、モバイルの機能・特徴を生かし好評を博している。

利便性の向上が著しい実用系コンテンツと、一般企業サイトの登場

 次に、非エンタメコンテンツに関しては、実用系コンテンツの利用動向が活発であった。ドコモ、au、ソフトバンクの全キャリアの該当メニュー内で1位をキープする「ルナルナ女性の医学」を筆頭とする女性の悩みを解決するためのサイトに人気が集中した他、GPS端末の普及に伴って地図ナビゲーションサイトが好調。

 ドコモに限って言うならば、2007年にドコモと資本提携を行なったゼンリンデータコム社のアプリケーションに関しては現在の主力端末に機能がプリインストールされていた。60日以上の利用時に会員登録を必須するなど強力な顧客獲得経路を有しており、今後も有望だ。

 同様に、2008年4月にリニューアルされたi-menuポータルに掲載されているニュースや天気のコーナーに情報提供を行っているサイトに関しても、検索やメニューリスト以外から定常的に集客できるルートを得ており、活況を呈しているものと思われる。

 また、こうした情報サイト以外の大きな動きとして挙げられるのがコンテンツ市場の外に位置する大手一般企業のモバイル活用である。その最たる例として挙げられるのがマクドナルド社「トクするケータイサイト」だ。クーポン配信をフックに集客を行なう当サイトは、開始から2年を待たず会員数1000万人を突破した(2008年4月同社発表)。

 従来のマスメディアを用いた大型プロモーションに代わる直接顧客にアプローチできる広告手法として、また、精度の高い極めて強力な顧客マーケティングツールとして用いられる当サイトの活用は国内外食産業界初の5000億円達成と決して無関係ではあるまい。こうした成功例を知った多くの企業が今「モバイルで何かしなくては」と強く感じており、今後も一般消費者向けに販売を行う大手企業を中心にこうした取り組みは更に積極化していくだろう。

買い替え速度の鈍化と定額制の普及が影響を与える2009年度の展望

 2009年度の動向を占う上で見逃せないのは、割賦販売制の導入による端末販売数の大幅低下だ。IDC Japanの調査によると、2008年第4四半期の国内携帯電話出荷台数は前年比32.8%減の809万台であったという。そしてこの低調傾向は2009年度も続く可能性が非常に高い。端末販売数の低下は端末の買い替えスパンが長くなったことを表しているのは言うまでもないが、モバイルコンテンツ市場にはどのような影響が与えられるのであろうか。

 最も大きな影響は新機能の普及に長期間を要するようになったことだろう。これまでモバイルコンテンツ市場には新機能の登場と共に新たなマーケットが誕生してきたが、今後仮に新機能が登場したとしても、対応端末が十分に行き渡るまでの速度が単純計算で3〜4割遅くなるという計算になるため、新たな端末機能に依存した市場の成長速度は確実に遅くなると考えてよいだろう。

 一方、端末販売の減速と対照的なのはパケット定額制の更なる普及だ。2008年6月時点でWIN契約者の内74%がパケット定額制に加入しているというauに関しては、2009年3月には定額制契約率が76%に達する見込みとなっており(出典:KDDI 2009年3月期 第1四半期決算発表)、普及は順調だ。それを追うように2009年5月から月額490円に値下げを行なったドコモ、さらにそれに対抗し7月を目途に月額490円の「パケットし放題2(仮称)」を提供するソフトバンクの値下げ競争も定額制普及をさらに加速させるだろう。

 こうした要因により、2009年度はすでに十分な端末普及を遂げている「着うたフル」や「デコレーションメール」といったコンテンツの続伸と、パケット定額化を背景としたオンラインゲーム市場、テレビ局コンテンツの台頭などが予想される。5月にスタートしたドコモ「BeeTV」もパケット定額制を前提としたサービスであり注目したいところ。もちろん環境に左右されにくい実用系コンテンツや、成長著しい女性向け恋愛ゲーム市場にも更なる期待が寄せられる。また、ドコモに限った市場となるが、2008年11月リリースから半年間で100万契約を突破したiコンシェルと、付随サービスである「マチキャラ」市場も大きな可能性を秘めている。

 こうした2009年の注目すべき市場については次回以降に詳細を述べたいと思う。

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