こうした動きに呼応するかのように、舛添大臣はこの改正薬事法の完全施行(省令)について「議論がまだ十分につくされていない」「国民的議論がなされてない」とし、みずからの指示で「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」(構成委員・メンバーPDF)が設置され、2009年2月24日に第1回検討会が開催され、直近4月28日開催までで5回を重ねる。検討会の議題は(1)薬局・店舗等では医薬品の購入が困難な場合の対応方策、(2)インターネット等を通じた医薬品販売の在り方の2点だ。
第4回までは、これまでの経緯説明や各委員の意見などが出され、利害関係が相反するメンバーがいることもあって、委員同士で議論が白熱することはあったが、それでも各委員はなんらかの方向付けをしようと真摯に検討会と向き合ってきたが、それまでの議論がすべてひっくり返されるようなある意味“事件”が起きたのは第5回だった(厚労省のサイトにはまだ提出資料や議事録が掲載されていない。配付資料全文PDF、以下は本文に関係のある部分を抜き出す)。
およそ2時間半にわたって開催された第5回の検討会では、4回までで出てきた意見を論点ごとに整理することが議題とされ、1つ1つ確認がなされるかたちで当初予定されていた2時間はほぼこれに費やされた。
その内容の全文は(PDF)を参照してほしい。また、論点ごとに意見を整理するために、各委員から提出された資料についても議論がなされた。
まずは、楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が提出した資料(PDF)。日本薬剤師会などによるネット販売の代替案(置き薬や家族による代理購入、取り寄せ購入などによる代替)を署名者中心に問うたときの消費者の声をまとめた内容と、和歌山県の北山村長である奥田貢氏が舛添厚生労働大臣およびこの検討会にあてた「過疎地における住民が困る実状」や「省令の改正を再検討してほしい」とした「一般医薬品の通信販売継続を求める意見書」の内容だった。
次に、NPO法人日本オンラインドラッグ協会理事長で、ケンコーコム代表取締役社長)の後藤玄利氏から「医薬品の通信販売継続に向けたお願い」が提出された(PDF)された。このお願いの主旨は「当分の間、医薬品の通信販売ができるように措置をご審議賜りますようお願い申し上げます」ということで、このまま6月1日を迎えると、ネットも含めた通信販売を通じて医薬品を突然購入できなくなる消費者が出てその健康維持に影響が及ぶだけではなく、通信販売が主な収入源の薬局・店舗が窮地に追い込まれる可能性があるため、第2類と第3類の医薬品の販売を暫定措置として一定期間継続させてほしいという内容だった。そして、「ネット販売に関しては別に検討する場を用意してきちんと定めさせてほしい」(後藤氏)という。
このお願いに関しては、(日本チェーンドラッグストア協会副会長、小田薬局代表取締役社長である小田兵馬氏が「後藤委員の話はまったく持ってその通りで、私どももネット販売と言うことに関しては、別の場で議論すべきではないかと申し述べてきた」と一定の理解を示したが、「そういう意味では、この資料の提出の宛先がこの検討委員会になっているが、これは出し先が違うのではないか。当面の間考えられないか、ということが書いてあるが、これに関しては検討委員会で論じるべきなのかどうか。事務局側にも問いたいが」と発言があった。
また、社団法人日本薬剤師会会長の児玉孝氏は「私はいままでこの検討会で後藤委員も三木谷委員も消費者、生活者のためにネット販売が必要だとずっとおっしゃってこられた。ただ、この文章の中身をみると、どうも結果として業者が困るというトーンが多い。そのうえで、こういう措置をしてほしいとおっしゃっている。ましてや、取り扱う医薬品の範囲に関する制限、あるいは販売方法に関する制限、そういったことを認めてもらいたいというのであれば、なんのためにこの検討会が用意されたのか、私には理解できない」とした上で、「この資料は新たな医薬品の販売(ネットによる販売)を前提としたものであれば、私どもはいっさい認められない」と痛烈に批判した。
この話は後藤氏の提出した資料の内容だけでなく、ネット販売に対する意見として批判が相次いだ。日本置き薬協会常任理事長の足高慶宣氏は、「私として、回答がほしいのは、ネットを使って対面販売であることの優位性、たとえば相手さまが気付かない病気を発見してあげるとか、相手さまがいかにも自殺するために薬をたくさんほしいんだという時にそれを止めるとか、ちょっとした説明ではわかりにくい部分をわかりやすい日本語の言葉を使って説明して、なんとか伝達するとか、そういった面をどういう風にカバーするのか。克服する手段があるのか」と反論した。
さらに、全国消費者団体連絡会事務局長の阿南久氏は「新販売制度をとろうとしたのはずいぶん前のこと。その時点から現実的にそれぞれどういう努力をしてきたのか。あと1カ月しかないと言われても、新販売制度に伴う自分たちの生き残りや消費者理解について何をしてきたのか、ぜひ聞きたい」とし、全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかり氏も「いまここで、ネット業者の方が事業が立ちゆかなくなるので、経過措置を設けてほしいと言った議論は、じゃあ、それまで議論してきてどう整合性をとるのかというのは本当に大事な部分だと思うんですね」と懐疑的な意見が連続した。
つまり、ネット販売に疑問を呈する委員は、「薬事法の原理原則である対面販売による安全性の担保はきちんと計れるのか」「改正薬事法まで時間があったのにいままで何をやってきたのか、努力をしてきたのか」といった内容の反論が相次いだわけだ。
これに対して、三木谷氏は「いまさらなんなのだという部分については、日進月歩にいろいろなことが進んでいる中で、4年前は医薬品販売も今の5分の1とか10分の1とかの規模だったんだろうと思う。そういう意味で、市場拡大、ユーザーの拡大もしている中で、検討会の皆さんに十分な情報提供をやってこなかったというのは申し訳ないことだとお詫びします」とした上で、「医薬品だけにかかわらず、ネット販売の安全性については、我々の生命線でもありますし、特に今回の新ガイドラインに向かって6月1日に向けて相当な開発費や、薬局さんには相当な人的な負担というのは発生するが、努力しているところ」と反論した。そして、「離島や過疎地、身障者、シングルマザーなど実際に困る人が大勢いることもわかってほしい」と述べた。
第2類と第3類までのネット販売を認めてほしいとする委員からは、「安全性は自主ルールを策定するなど十分に努力している」、「実際にネット販売が6月1日以降に突然停止されたら困る消費者、事業者がいる」とした意見が相次いだ。
こうしたネット販売の是非が議論される中、ほかにも全国伝統薬連絡協議会の綾部隆一氏が伝統薬に関する資料(PDF)や、慶應義塾大学総合政策学部教授の国領二郎氏が提出した「リスクコミュニケーションによる一般医薬品のより安全な活用に向けて」と題した資料(PDF)、足高氏が提出した「論点は安全性 vs 利便性で、安全性重視の方法論として“安全性を担保するもの=専門家の直接面談に依る『対面販売』”」とした意見書(PDF)などがあった。
参考資料が一通り出て、本日の検討会の議題通りまとめようとしたところから、徐々に検討会の雰囲気が変わり始め、ネット販売に対する懐疑派も継続派も検討会の委員一同が唖然とするような“事件”へと発展した。ここに至るまでの議論は、今後を考える上でも非常に重要だと考えたため、この第5回検討会の最後およそ30分強の議事録を別の記事に記す。
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