ものづくりに異変あり?! コンテンツの「逆」潮流とは - (page 2)

ものづくりに異変あり?! コンテンツの「逆」潮流とは

 さてこの連載のタイトルには「逆流するコンテンツビジネス」という表現が含まれておりますが、これが意図するところについて簡単に説明したいと思います。

 通常、いわゆる「川上」「川中」「川下」などといって区別されるような、さまざまなステージを経て、モノが作られ、流通し、販売されます。旧来のモノづくりでは、川上から川下に向って情報も流れてきました。最近になって、この情報の流れが逆流しつつある、つまり川下から川上に向って情報が流れ始めているような気がしています。

 さらに、逆流の結果得られた情報をモノづくりに活用できた企業は、ビジネス的にも成功を収めているように思います。このような状況を「逆流するコンテンツビジネス」と表現してみました。

 もちろん多かれ少なかれ、開発側ではユーザー側の動向を注視しています。しかし、製品開発には多くのリードタイムを必要としますので、どうしても企画段階と製品が生産される時点では、マーケット状況に大きな差が出てしまうわけです。

 それが、90年代以降、本格的な情報技術の普及などによって、開発現場にイノベーションが起きました。ケースバイケースですが、開発期間が大幅に短縮された例も多くあります。そうすると、マーケットニーズに応えながら開発を行うことが(原理的には)できるようになる。原理的にはできるけれども、実際にはこれは非常に難しい。

 しかしながら、市場における過酷な競争の結果、いくつかの企業は、ユーザーニーズの把握手法や、そのものづくりへの還元の手法を獲得して収益化に成功しています。さらに、ごくわずかの企業は、暗黙知の形式化に成功し、スケーラビリティを担保しています。以上の成功のポイントは、個別の事例の列挙にとどまっており、まだまだ詳細な検討はされていないように思います。

 いきなり極端な例を出して恐縮ですが、ファッションやオンラインゲームの世界では、ユーザーの意図を汲み上げ、ものづくりにフィードバックをリアルタイムで行うことで、格段に収益性を伸ばしている事例があります。これらの事例の詳細については、連載が進む過程でご紹介していきたいと思っております。このような事例を咀嚼した上で、私は次のような仮説を持っています。

 つまり、「ユーザー目線のものづくりは、ほとんどあらゆる業種で可能なのではないか?」ということです。

まとめ

 諸外国と比較して、日本の特徴と言えるのは、個人や個人が繋がったコミュニティ(SNSなどのソーシャルメディア)などを起点として、消費者から流通、生産者側へのボトムアップ型の情報の伝播が起きている点だと思います。

 また、そこでは、それに迅速に応えるモノづくりを行った産業・企業が利益を得ることに成功しつつあるとも感じています。マスメディアの崩壊と共に従来のコンテンツビジネスの危機が叫ばれる一方で、インターネットを中心としたUGCやCGMの隆盛は伝えられるものの「ちっとも儲からない」と言う声も聞かれる状況の下では、これは注目に値する現象だと思います。

 この連載では、User-Inspired Innovation(UII=ユーザー目線のモノづくり)と仮称した、ユーザーが触発しプロが形にするものづくりの過程について語りたいと思います。

 また同時に、東京大学駒場教養部の学生向けに、この動きにおいて先行しているファッション産業や同様の現象が起きつつあるインターネット、モバイルなどデジタルコンテンツ業界からエキスパートの方々を講師にお招きしながら最新かつリアリティのある同研究とリンクした講座を行いますので、そのリポートも連載の中でお届けするつもりです。

 ご期待ください。

七丈直弘 Naohiro Shichijo

東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。

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