シャープは2月6日、2009年3月期の連結ベースの最終損益が1000億円の赤字(前期実績は1019億円の黒字)になると発表した。わずか1年間で2000億円超利益が悪化することになる。1年前には“代表的勝ち組企業”とされ、株価も2000円台を保っていた。同社の収益が急速に悪化した背景と今後の見通しを探った。
業績が急速に悪化したのは、世界的な景気悪化が一段と深刻化する中で、主力商品の液晶テレビや液晶パネルの販売数量の急減、海外メーカーも含めた値下げ競争の激化による採算の悪化、円高による為替差損による利益の目減りがある。今3月期の最終赤字1000億円の要因を分析してみると、テレビ専用だった亀山工場(三重県亀山市)の一部生産ラインを中小型パネル用に改造するなど、事業構造の改革費用が500億円、液晶パネルに関する米国での独占禁止法問題に関する損失120億円、提携先のパイオニアなど投資有価証券評価損433億円となっている。
問題は、来期の2010年3月期の動向だ。同社は来期に2000億円の構造改革効果を見込んでいる。具体的には、三重第一工場、天理工場の一部生産ラインの閉鎖、工場の集約などの液晶生産工程に再編を進めているのをはじめ、契約を延長しない形で国内の非正規社員1500人削減を目指す。来期に、こうした構造改革が実効性を伴うかどうかだ。第3四半期(2008年10〜12月)で見た場合、前年同期比で液晶テレビの販売台数は12%増加したものの、売上高は20%程度減少しており、販売価格自体の下落や、販売商品構成の変化(大型機種の比率が減少し、利益率の小さい中型機種へのシフト)が予想以上に深刻化していることが分かる。
外国証券のアナリストは「一般には赤字幅の大きさなどで、トヨタに代表される自動車会社の業績悪化が取りざたされているが、商品の価格競争の厳しさ、下落懸念はデジタル家電製品の方が自動車よりも厳しいのではないのか。とくに、シャープの場合その品質の良さ、ブランド力には定評はあるものの、海外市場で韓国、台湾、中国などのメーカー製品との価格競争激化で採算が悪化する危険性をはらんでいる」と指摘している。
もうひとつの懸念は、シャープが筆頭株主で発行済総株式数の14.3%(300万株)を保有しているパイオニアの件だ。パイオニアは2月12日、薄型テレビ事業からの全面撤退を正式表明した。パイオニアはプラズマテレビの自社開発をやめ、すでに閉鎖を決めている米欧の工場に加えて静岡県袋井市の工場も年内をメドに生産を中止する。さらに、シャープからの液晶テレビの調達も中止する。
シャープは、2007年12月20日に第三者割当増資を引き受けてパイオニアの筆頭株主となったが、その時の購入価格が1株=1385円。ところが、パイオニアの先週末2月13日の安値は140円と上場来安値に落ち込んでいる。今後もこれに関連した投資有価証券の評価損を計上する懸念があるのに加え、さらなる資本・資金面での支援が必要とされる局面を迎えることになりそうだ。
シャープの株価は、年初に急騰をみせ1月7日には897円の高値をつけたものの、その後は反落に転じ2月3日には642円の安値をつけた。その後は700〜750円の推移となっている。現状では、現在の株価水準から大幅に売り込まれる可能性は少ないものの、来期の業績予想次第では、安値を追う可能性も否定できない。
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