インターネットの生みの親であるVint Cerf氏が何年も前から考えていた惑星間ネットワークが近ごろ、初めて実際にテストされた。2005年にディープインパクト計画としてテンペル第1彗星に衝突体を打ち込んだEPOXI探査機は、その役目を終えた後、NASAの新しい「Disruption-Tolerant Networking(DTN)」プロトコルをテストするための実験台としての役目を果たすために、そのソフトウェアの再構成が行われた。同探査機は、2010年に予定されているハートレー彗星の調査に向かうための重力アシストを利用するために地球に接近した際、火星の衛星であるフォボスのシミュレーション画像をこの新しいプロトコルを用いて送信した。
EPOXIは今回のテストにおいて、新たなネットワークアーキテクチャの信頼性と堅牢性を検証するために、テストネットワークにおける10個のノードの1つとして機能した(他の9個のノードは地球上に存在している)。
この新ネットワークシステムは、Cerf氏のInterplanetary Net(惑星間ネットワーク)プロジェクトの副産物であり、今日のインターネットで使用されているTCP/IPプロトコルの上位層として使用することもできる。なお、DTNは地球外環境を念頭に置いて設計されているものの、そのテクノロジは最終的に、地球上におけるコミュニケーションを改善するために地上でも使用されるようになる可能性がある。
NASAのジェット推進研究所(JPL)で宇宙ネットワークアーキテクチャのチームを率いるマネージャーのAdrian Hooke氏が、TCP/IPに基づいたインターネットの限界について筆者に説明してくれた。同氏によると、われわれはインターネットが障害に強いと考える傾向にあるものの、インターネットは「2台のマシン間で接続が途絶えることに対して実際には耐性がない」という。同氏は、中継局(ルータ)との接続が途絶えた場合、「ルータは数ミリ秒後にパケットを破棄し始める」と説明している。
太陽系内においては、2点間の通信はたった1ビットの情報でも数分どころか数時間かかることもあり得るうえに、相互接続されたルータも存在しないため、中継局はよりスマートかつ堅牢である必要がある。パケットを破棄することは許されない。Hooke氏は「宇宙では、エンドツーエンドの経路が確保できることは非常にまれである」と述べている。
DTNデバイスの場合、ルータのようにパケットを通信チェーンの隣のデバイスに送信するだけでは済まない。そうではなく、こういったデバイスはパケットの送信先を確認できるまでそのパケットを保持し、送信後も確認応答(ACK)を受信するまではそのパケットを保持し続けるのである。そしてACKを受信したパケットのみ、そのデータの「所有権」を通信チェーンにおける隣のリンクへと譲るのである。
DTNネットワークは一般的なルータよりもスマートである必要があり、ストレージもより多く必要とする。惑星と宇宙船は静止しているわけではないため、どのデバイスにいつデータを送信できるのかを知っておく必要がある。また、受信したパケットを送信する先がない場合でもそれを保持し続けるだけの十分なストレージも必要となる。
こういったコンセプトは新しいものではない。電子メールのルータは情報を送信するために蓄積交換アーキテクチャを採用している。また、メッシュネットワークは接続においてオポチュニスティックなアーキテクチャを採用している。しかし、DTNプロトコルが宇宙での運用に耐えられるようになるには非常に長い開発サイクルが必要である。Hooke氏によると、NASAは2011年には宇宙船および地上無線局におけるDTNの採用が可能になると期待しているものの、同テクノロジが実際に宇宙で使用されるまでにはその後4〜5年が必要だという。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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