著作権保護期間の延長はせず、「公的保証システム」導入を--有識者らが提言

 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(think C)は10月30日、これまでの活動や議論を踏まえた提言をまとめるとともに、内容説明を兼ねたシンポジウムを開催した。

 提言の内容は大きく4点。フォーラムタイトルにもなった「著作権保護期間の延長回避」のほか、他の団体などでも取り上げられている「日本版フェアユース規定の速やかな導入」、流通、利用促進を図るための「公的報償システム(PCS)の導入、データベースの相互接続」、そして著作権だけに依存しない「新たな創作支援制度の創設、強化」だ。

 特徴的なのは3点目のPCSの導入。PCSは許諾が必要なコンテンツを非営利目的で利用する際、自由な利用を認めるシステムに権利者が自ら登録する代わりとして、利用実績に応じた報償金を支払うというもの。利用に応じた対価を用意することで、自由利用を目的としたデータベースへ権利者が能動的に登録するようにし、かつ利用者がコンテンツを利用しやすいインフラを整えることが狙いだ。一方、営利目的の利用が多いコンテンツの活用については、既存の権利情報データベースを相互接続することで対応するとしている。

福井建策氏 弁護士の福井建策氏

 提言はthink C内に設けられた提言プロジェクトメンバー12人が中心となってまとめたもので、共同提言者として有志81人が賛同している。プロジェクトチームメンバーで弁護士の福井建策氏は「こうした提言を公表することで、権利者を含むさまざまな立場の方から批判を受けるのは覚悟の上。単に延長反対を唱えるだけではなく、議論に一石を投じることが大きな目的のひとつ」と公表の理由を説明した。

 シンポジウム後半では、前述の提言を踏まえたパネルディスカッションが実施された。漫画家で延長賛成論者としても知られる松本零士氏は、改めて「(70年という)世界統一ルールにあわせてほしい」と訴えた。国立西洋美術館副館長で、前文化庁著作権課課長の甲野正道氏も、提言内容を評価しつつも「もっといろいろな立場の創作者の意見を聞いた上で次の提言に進むことができれば、よりよい形になるのでは」とあくまで中立な立場を貫いた。

中山信弘氏 東京大学名誉教授の中山信弘氏

 これに対し、先ごろ設立された「デジタル・コンテンツ協議会」発起人代表を務める東京大学名誉教授の中山信弘氏は「著作権延長問題はあくまで独占的利潤を保証する期間をめぐる、いわば金の問題。作家をリスペクトする、しないという人格権の問題と一緒にしてしまうことが(文化審議会などの)議論で混乱を招いた」と指摘。また、権利者側の意見も聞くべきとした甲野氏に対し、福井氏は「妥結をとるべきとの考えは理解できるが、この場合(延長問題)は違う。(延長回避という)結論を得たことで、世界に対して日本の考えがしっかりと示せたと考えている」とした。

 そのほか、提言の4点目として示された支援体制については、「創作者個々に金銭的支援をしようというものではなく、発表の場の提供、契約実務能力の指導、情報提供など、インフラ分野を強化するもの」(福井氏)と説明。これについては、松本氏も「能力があっても売れない作家は数多くいる。そうした人を支援する体制が作れるのであれば歓迎すべきこと」と賛同の意を示した。

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