人の限界超えるためにこそ技術はある(前編) - (page 2)

佐俣アンリ、文:加藤さこ2008年04月10日 08時00分

佐俣:先ほど、田尻さんが世代間のズレについて話してましたが、確かに僕も感じるところがあります。今の50代の人達は、情報通信分野の中核となるセキュリティを作ってきたという自負とともに、ITとはこうあるべきという哲学のようなものを持っていると思います。でも、僕らは子供の頃から情報通信分野の基盤やそれを支えるセキュリティを考えなくても、ITは当たり前のようにあって、それと自然体で接しているんですよね。

渡邊氏:それで、僕らよりも下の世代の人は、携帯でワンセグが当たり前という感じで、どんどん技術が「当たり前」になっている。「なんでPCでメールしなきゃいけないの?面倒じゃん」という世代ですからね。

碇氏:ゴリゴリの技術のことばかり考えないで、“祭り”的に盛り上がる、面白いからいいじゃん——というノリでいいと思うんですよ。それって、日本人らしいサービスの良さじゃないでしょうか。

 日本の江戸時代の文化は、からくり人形やマンガが流行したりと、面白いものであれば伝統文芸だろうが教養の分野だろうが何でも取り込んできたんですよね。アメリカの場合、研究はある意味自由だけど、投資された資金の元を取らなければいけない。だから結果は必ず出さなきゃならない。

 確かに、そのどちらも重要なことではあると思うので、双方の良さを生かして、バランスのいい方向を目指していけたらいいなと思います。

田尻氏:でも、技術って進歩してるの?技術者の人に怒られちゃいますけど、僕は疑問を感じるんですよ。

佐俣 「年配の方は情報通信分野の中核となるセキュリティを作ってきたという自負とともに、ITとはこうあるべきという哲学のようなものを持っていると思います。でも、僕らは子供の頃からITは当たり前のようにあって、それと自然体で接しているんですよね」

佐俣:確かに、Googleはマーケティングとブランディングがうまいんだと思うけど、検索エンジンの中核技術となる「引用」でサイトの価値を見い出してランキングする「PageRank」という発想は、発想の根本自体は何百年も前からあるし、特別難しい技術ということでもないですからね。

碇氏:でも、技術を積み上げて下さった方々の成果物の上に私たちがやりたいこを実現する場が成り立っているのが今、というのも事実ですよね。私は、技術の発展によって新しい技術基盤の上に成立しているプラットフォームがより一般化して誰もが使える存在になってきたことで、「技術が人に近づいてきたんじゃないか」と考えているんですよ。

渡邊氏:昔はPCで人間をつくるぞという発想を、「AI」として発展させようとしていましたね。でも、うまくいってない。それに気づいていたのがGoogleだと思う。

 中核技術となる「PageRank」のインフラを作ったのはすごいと思います。古いこだわりと固定観念を切り捨て、現実的な思想や技術を使ってできることを形にしたころが、成功につながったんですよ。PCで何かをする、ということだけではなく。

専門家にならない程度のITとの距離

渡邊氏:今までの話の流れだと技術に対して否定的な意見が多いと聞こえるかもしれないけど、僕は技術の存在を尊敬してきたんですよ。ただ、これから僕らは技術以外のところでも重要な役割を担っていかなければならないんじゃないかな。

渡邊氏 「存在していないまだ見えないものを作ろうとしているという点で、社会学も心理学も技術と近い目標を持っていて、技術とそれらは両輪であり、一緒に発展していくことが今後はもっと欠かせないことになるのではないかと」

 例えば、ITと深く関連している部分で、それを技術以外の何かで体系化するようなことです。もっと具体的に言うと、存在していないまだ見えないものを作ろうとしているという点で、社会学も心理学も技術と近い目標を持っていて、技術とそれらは両輪であり、一緒に発展していくことが今後はもっと欠かせないことになるのではないかと。

碇氏:学問とITが結びついて、他のことでコラボできたら面白いですね。

渡邊氏:一時期、ITを志す人は専門性がないのはダメだという流れがあったけど、それはそれで重要だけど今は総合的にまとめる人間がいなくて困っている気がしますね。

田尻氏:そうですね。僕の考えに、技術的に真にプロフェッショナルである人が経営者になるのはなかなか難しい、というのがあります。

田尻氏 「僕の考えに、技術的に真にプロフェッショナルである人が経営者になるのはなかなか難しい、というのがあります。だから僕は意識的に、各分野の専門家にならないようにしようとしているんです。若干距離を置いて、総合的にまとめる能力の必要性を感じていますから」

 経営者として仕事をする中で感じることは、いろんな場面で、いろんな立ち位置があるということです。例えば、ECをどう活用するか、どうSNSをうまく活用するか——などといったことを考える時などにも、渡邊さんが言ったような総合的にまとめる能力の必要性を感じます。

佐俣:良い意味での技術と距離感が必要ということなんですね。ITとの距離感が近寄りすぎず、ITのみにこだわっていないという良い距離感を保っていることで、面白いものが生まれるということがあるのかもしれませんね。

碇氏:一応、大学の研究でプログラミングも学びましたが、本格的にやるなら得意な人と組んでやればいいわけです。ただ、自分も作り手として一枚噛みたいという時もあるし、どういう気持ちでサービスを作っているか、イメージから聞いて作っていくというプロフェッショナル的な部分も持っていたい。だから、バランスよくうまく組み合わせることが大切なんですね。

渡邊氏:僕はアイデアが思いつくとき、PC上でブレインストーミングをしながら、ウィンドウが勝手に動いたら面白い、接触したもの同士で検索したら面白いなという閃きがあったんです。そこから「メモリウム」が生まれました。

碇氏:閃きはどこからくるんでしょうね。

田尻氏:遊びからでしょう。

碇氏:私はITに詳しくない人達にも届くものを作りたい。面白いものがいっぱいあるのに、もったいないですよ。もっと、たくさんのひとに使って欲しい。

碇氏 「今あるITの多くは使う人に“優しく”ないんです。とっつきづらいものが多い。技術だけ先走るのではなく、人間が使うことを前提にしたインターフェース、使い勝手をもっと考えていく必要があります」

 なぜ使わないかというと、ひとつの理由としては使う人に“優しく”ないんです。とっつきづらいものが多い。技術だけ先走るのではなく、人間が使うことを前提にしたインターフェース、使い勝手をもっと考えていく必要がありますよ。

佐俣:その点、FLASHは言語が違ったりITを知らなくても誰でも見られる。ミクシィは知ってるけどSNSは知らないというように。技術を知らなくても自然に使いこなせているものはすごいですね。

後編に続く

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]