このコラムでは、次世代広告マンの人材育成論を中心に論じている。そのなかで、「ネット広告で鍛えられた人材に、マス広告、OOH(Out of Home:屋外広告など家庭以外で接触するメディアによる広告の総称)メディア、SP(Sales Promotion:新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマス4媒体以外にもネット、屋外広告、交通広告、イベントなど広範囲が含まれる)メディアなどを習得してもらうというプロセスがある」と書いた。
その目指すところのひとつの方向に、「コミュニケーションチャネルプランナー」という職能概念がある。あえて「メディアプランナー」といわないのは、従来の概念でいうところのメディアに限らず、ウェブ、店頭、商品パッケージ、屋外、イベントなどの様々な生活者接点を「コミュニケーションチャネル」と呼んで、トータルな接点プランニングをしようという発想からである。そもそも従来のAbove the LineとBelow the Lineという分業は既にあまり意味をもたない。いわゆる販売促進と呼んでいる活動の多くは、重要な生活者接点でのコミュニケーション活動である(営業支援としてのセールスマニュアルづくりなどは別にして)。
次世代型広告マンの素養で重要なのは、こうした生活者接点に関する知見を一定以上持ち合わせて、それぞれのスペシャリストを通じて実施案を組み上げる企画プロデューサーであることである。そして各チャネルのスペシャリストも、他のチャネルのことをまったく知らないのではスペシャリストたり得なくなる。
また一番大切なのはどんなコミュニケーションチャネルの専門家も、プランナーも、プロデューサーも、ベーシックな資質として「インタラクティブ」という概念、ネット社会のコミュニケーションの本質を理解していることである。言葉にするのが少し難しいが、こうした感覚と理解(勉強しなくても身についている人はいいが、そうでなければよほどの勉強をして理解する)が必要条件となる。
そしてこれこそ、現状の広告会社ではまったく育成の道筋が立っていないスキルである。メディアとSPの分業制、メディアごとの分業制、インタラクティブの分業制で構成している広告会社では、これらを串刺しにして新しいスキルを創出することはたいへん難しい。もちろんここが広告会社の稼ぎの中核だから、その組織と職能形成プロセスを簡単にいじる訳にはいかない。稼ぎの中核はいじれないから、社員に対しては「個人的に勉強してスキルを身につけなさい」というだけで、育成の装置(融合させた実践の場)を提供することができない。
最近はどこも社内大学ばやりで、座学はたくさん受けられる。しかし所詮「座学」は「座学」、意識を高める効果はあっても、実践の場を用意する以外に、スキルそのものを育成することはできない。特にネット分野のスキルを座学だけで身につけるというのは不可能だ。
さて、この「コミュニケーションチャネルプランナー」が従来のメディアプランナーと違う最大のポイントは、コンテンツをも発想することである。いわゆるクリエイティブ職がコミュニケーションコンテンツを提案してきて、それに合わせてチャネルプランをつくるだけなく、「こういうチャネルを使えばこういうコンテンツが展開できる」という逆発想ができることだ。
特に今後はブランドのオリジナルコンテンツを起点にしたチャネルプランニングが求められるので、当然コンテンツと無縁の仕事など有り得ない。いずれにしてもたいへん勉強が要る職能であるが、現在の総合広告会社の体制よりも少数かつシンプルなユニット構成で仕事をしてみることが近道だろう(図参照)。
ところで、次世代広告マンの基本素養として、まず「コミュニケーションチャネルプランナー」を志向すべきなのは、これを基本として、各種コミュニケーションチャネルの専門家、インタラクティブをコアにしたキャンペーンのプロデューサー(営業)や総合プランナーに派生していけると思うからだ。はっきりいって、コミュニケーションチャネルすべてに精通することは至難の業と云える(というか有り得ない)。
しかし、次世代コミュニケーションにおいては、送り手ではなく受け手である消費者に主導権がある。消費者(受け手)サイドに立ったコミュニケーションチャネルプランニングは、「どんなコンテンツがどんなチャネルで関わってくると反応するか」を情報の受け手の立場で発想することであるで、接点の一部だけ分かっていてもコミュニケーションデザインはできない。つまり次世代広告マンは消費者をレップするのだ。ターゲットをとりまく360度をプランニングする、またはそのプランニングをプロデュースするのが次世代広告マンだ。
こうした意味で、次世代広告マンの育成におけるひとつの橋頭堡が、ネット分野で鍛えた広告マンの「コミュニケーションチャネルプランナー化」だと思う。
その具体的なスキル育成プロセスについては、また別の機会に書こうと思う。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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