すべての事象には、善きに導く「本質」が存在する(第7回:佐藤光紀)

 1996年の立教大学。大学の食堂を見渡すと、体育会系の軍団もいれば、ギター片手に集まる音楽サークルのグループもいる。そこに一人、バンド仲間の中でスーツ姿の一風変わった青年がいた。

 彼はご飯を食べた後、後ろの電話ボックスに駆け込み何やら営業のアポイント取りを始めた。それまで勉強もそつなくこなし、華やかなマスコミ業界に憧れていたこの青年が飛び込んだ先は、まだ主となる事業があると言えばある、ないと言えばない20人弱のベンチャー企業であった。

 その企業は株式会社セプテーニ。そして、この青年こそ、後に「ひねらんかい」を社訓に新規事業を立ち上げるセプテーニ社長の佐藤光紀氏である。

 ベンチャー企業に飛び込み、経営者の座にまで上り詰めた佐藤氏の強みとは何か――。常に「物事の本質は何か?」を考えるセプテーニの佐藤氏に、さまざまお話を聞いて来ました。

※こだまんが下のビデオで本企画の趣旨を説明いたします。

--この企画は、インタビューをする人の原点を探るというのが一つの目的であり、子供の頃に何かしらのキーワード探ろうということで、毎回幼少時代の話を伺う事にしています。まずは佐藤さんの子供時代を教えて下さい。

佐藤氏 佐藤光紀(さとう・こうき)氏:1975年3月11日生まれ。1997年、現セプテーニ・ホールディングス入社後、当時の既存部署にて営業を経験。1999年4月に新規事業立ち上げ部署「ひねらん課」を新設。同課を経て2000年4月「インターネット事業本部」を設立し、インターネットマーケティング事業に進出。2004年10月、セプテーニ専務取締役に就任後、2006年10月より代表取締役社長。

 僕は東京の国立に生まれて、ずっとそこで育ちました。本が好きなので、漫画から教科書まで毎日読みあさっていましたね。

 用意された教科書をすべて読んでしまうと、授業を受けていても、先に内容を把握してしまっているためにつまらなくなって、学校に行きたくなくってしまう。生意気でサボり気味、夕方になると塾に潜り込んで、教室の後ろでこれまた教科書を読む。活字が大好きで、常に文字が頭の中に入ってこないとなんだか満足できない。

 今思えばイヤな子供でしたよ。ただそんな態度だから、たとえテストの点は良くても先生の評価は低く、成績はあまりよくありませんでした。

--勉強しているそぶりはないけれどテストの点数は良いというある種天才っていましたねー。活字好きには何か理由があるのでしょうか?

 元々小さい頃は体が弱く、小児ぜんそく持ちだったので、自分は周りの友達とは同じようにアクティブには行動できないんだなということがコンプレックスでした。家で寝ていることが多く、必然的に「深く思考する」時間がたくさんあったんですよね。だから本を読みました。

 図鑑、小説、文学系、哲学系そして歴史。今でも、読む本は新聞5〜6紙にビジネス誌、雑誌、小説、漫画の類いを週20冊以上は読んでいます。

--中学・高校時代はどんな学生でした?

 中学に入ると徐々にぜんそくは良くなり、ようやく人並みの生活ができるようになりました。そうなると今度はコンプレックス解消のためか、「体がどうやって丈夫になるか?」を知るために情報収集をする健康オタクとなり、生活習慣に関してはかなり詳しくなりましたね。おかげさまで今ではすごく健康です。

 読書とともに映画や音楽といった文科系が好きなんですよ。だから高校では軽音楽部に入りました。軽音楽部というとバンドサークルのイメージが強いですが、そこはビッグバンドジャズの部活で中身は体育会系、基礎練習を延々とやっていました。学業の方はというと、高校では評価がテスト中心になったせいか、勉強以外の態度がいまいちでも、成績は格段にあがりました。

--音楽をやっているから、芸大に行こうという考えはなかったのでしょうか?

 芸大に行こうという発想はまったくありませんでした。元来のプロデューサー思考で、プレイヤー思考ではないんです。

 大学に入ってからは、ずっと音楽ばっかりでした。かつて「ムーンライダース」が在籍していたというオリジナル中心のサークルに所属して、ロックやファンクのバンドを組んで演奏していました。勉学では早い段階で単位を取り終えると、残された学生生活では、音楽とアルバイトに明け暮れていました。当時はレコード屋とマスコミ関係での制作アシスタントのアルバイトをしていましたね。

--音楽をやっているからレコード屋でバイトというのは想像がつきますが、マスコミ関係でのAD(アシスタントディレクター)のバイトはまた何故?

 好きな事を仕事にしたくて。一番好きなのが、メディアやコンテンツ産業なんです。コンテンツは、映像と音楽と文章で構成されていますよね。僕の大好きなその3つに出会えるので、こんなに楽しい事はないとマスコミ関係の会社で働きました。華やかな業界に憧れていたんです。

「他人より秀でたものが無いのなら今よりも成長するしか無い」

--華やかなマスコミ業界でアルバイトをする頭の切れる学生佐藤さんとベンチャー企業に飛び込もうとする佐藤さんとの共通点が見つかりませんが?

 楽して最大の成果を上げたいというのは誰もが思うことですよね。僕もそうでした。マスコミ、メディアが好きで、業界へのコネもありましたから、マスコミ業界に入れる可能性は高かったでしょう。当時は、「音楽をベースに、楽をしてステータスのある仕事をする」が僕の人生計画でしたし、仕事は生活の手段であって、人生の目的は別にあると思っていたんですよ。

 ところが、2年間のマスコミ業界でのアルバイトの中で、いかに日本の大企業が成熟・硬直化し衰退して行くかを目の当たりにしました。

 例えば、終身雇用や働く人達のモチベーション。派閥抗争や、内向きな大企業の硬直化の現実を見て「これが日本の現状か!」と。

 “モテリーマン”になれればいいやと思っていた受験も就職活動もしていない甘ちゃんの学生である自分が、日本はこういうものだという現実に直面したんです。

--憧れの業界の現実と自分の描いていたイメージとの間に大きなギャップが生じて来た訳ですね。それから、自分の中で何かが変わりましたか?

 大学4年の夏。周りは就職活動に必死な中で、「自分は余裕」と思っていましたが、そんな、楽した考え方を改めようと思ったんですね。自分の人生は自分で切り開いて行かなくてはいけないし、バイト先で数十年後の自分がこうなっているだとういう姿を見て、こうはなりたくないと思いました。

 「仕事を生活の手段にしてはいけない。仕事は人生の目的とベクトルをあわせるものだ」と。

 そう思った瞬間、全身に電気が走りました。僕の人生の目的は「成長したい」ということだと気づいたんです。人より秀でたものが何もないと思った時、今の自分に出来ることは成長する以外に無いと気がつきました。だったら、成長しようとしている会社で力を発揮し、会社と共に自分自身も成長してゆける職場を選ぼうと思いました。結果、ベンチャーで成長を目指す会社を3つ選びました。

 そのうちの1つがセプテーニです。他は人材ビジネスとCD・DVDレンタルの会社でしたが、その中でセプテーニが社員20人弱と一番小さかったのでここにしようと決めました。(今では残り二つも成長を続ける優良企業です)

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