すべての事象には、善きに導く「本質」が存在する(第7回:佐藤光紀) - (page 3)

 事業の中身が決まったその次に、社長と話して決めたルールは、「新事業を半年で単月黒字化」でした。やることは決まったけど、さて、人をどうしようか、既存の事業部から借りわけには行かないし、大した人脈もないし…。

 ふと辺りを見渡すと、そこには当時の内定者アルバイトの学生たちがいました。既存からは申し訳ないけど、新規からならいいだろうということで、内定者アルバイト、つまり社会人経験ゼロ、営業経験ゼロ、インターネット全く知りませんという「3ゼロの内定者」の中から数人選んでかつての僕のように巻き込んだわけです。

 最初はメディアを作ろうということで、比較サイトを運営する事業を立ち上げましたが、これは3カ月で終了しました。いまいち伸びるイメージが沸かなくて。半年の期限の中で、3カ月が過ぎると、残りの3カ月が想像できるじゃないですか。でもその頃には、サイトを運営する中で、メルマガ広告での効果の挙げ方のノウハウを溜め込んでいたので、メール広告に特化したブティックエージェンシーを作ろうと、事業の方針転換をしました。

 メール広告の市場では後発だったのですが、その市場ではトップになれたので,次のステージではネット広告、Eマーケティングを総合的に支援するインタラクティブエージェンシーになろう、と目標を修正しました。ただその市場でも後発だったので、新しいウェブサービス、よりエマージングな領域に特化して行こうと決めました。

「経営者は天職です」

--ネットの広告ビジネスは急速に広がっていく中、佐藤さんの事業も急成長をしますが、それだけ急激に成長をするとさまざまなところに歪みが出ませんか?

 それまで時間をかけてじっくり考えているだけに、事業そのものに対してぶれることはありませんでしたが、一番苦労したのはマネージメントですね。0から1にするステージと、1を100にするステージでは、求められる能力が全然違う。仕事を人に任せ、組織で業績を伸ばす所までシフトするのには苦労しましたね。

 任せるということは、なんのためにやるか、どのように考えてやるかという目的や考え方をきちっと共有できることが大事ですよね。任せるまでは共有する。任せて結果を待ち、出来ていればOK、出来なければで「どうしようか?」と一緒に考えるということの繰り返しです。

 自分がお客様に対してやって来たことと同じことを社員に対して出来るかどうかというのがとても重要ですよね。物事に直面して迷ったり、障害にぶつかったりすると、原点に戻り「こう決めたじゃないか!」と再確認します。自分が作った軸に沿って経営判断をすることは今考えればとても重要なんですよね。

--成長とともに、佐藤さんも経営者というポジションに変わりますが、何か大きな心境の変化や変わらない思いがあれば教えてください。

 やっていることは一緒です。最初の事業計画から高い目標を掲げているから、自分のモチベーションも変わりません。例えば、0の段階で1000億を考えると夢物語になってしまいますが、売上が300億位になると、徐々に1000億は視界に入ってきます。そうなると、飽きっぽい自分の性格上、目標達成による燃え尽き症候群の訪れが心配になります。(笑)

 だから僕は自分の中で、当初の目標に近づくにつれて、さらに高いところに目標を想定してみます。例えば売上が100億になった段階で、売上1兆円・純利益で1000億円に目標を設定し、シミュレーションしてみたり。純利益が1000億になれば国内でもTOP50に入る規模になりますから、そこそこ大企業ですよね。

 でもそうなった時に、当時自分が感じた硬直化した大企業ではなくて、次の世代を背負ってたつ成長する大企業になっていたいんです。オープンかつフラットでフェアな会社だったら、数十年後の僕がそのときの学生の立場になったとしても、当時自分が感じた「仕事って、つまらないな」という気持ちは解消されるじゃないですか。セプテーニも、いつかはそんな会社に成長させたいです。

--後半の質問に独立して何かをやる気持ちはあるかとお聞きしようと思いましたが、今の話を聞いているとご自身が立ち上げたビジネスだからそもそも独立する必要性がないんですね?

佐藤氏 「自分がイメージをした最高傑作を作るという観点で、会社程面白いものはないと思っています。アントニ・ガウディの『サグラダ・ファミリア』のように、時代が変わってもその人の意思が受け継がれていくというのに共感します」

 そうですね。あまり考えたことはないです。飽きてないですし(笑)。優秀な人材が集う場所を作って、集団の中で一番輝いている人を見つけて口説く。会社って、バンドをつくるのと似た要素があります。また、世界のメディア産業の変革の中心にあるのがインターネットの広告なので、一番イノベイティブなところで活動しているということは、結果的にはミーハー気分で憧れていた学生時代の僕と変わらないのかもしれません。知らず知らずにそういう道を選択していたのかもしれません。

 自分がイメージをした最高傑作を作るという観点で、会社程面白いものはないと思っています。アントニ・ガウディの「サグラダ・ファミリア」のように、時代が変わってもその人の意思が受け継がれていくというのに共感します。僕にとって、経営者というのは本当に天職だと思います。大変ですけど、楽しくて辛いというのが仕事だと思っていますし、人生の目的に近いので飽きません。幸せですよ。

--本当に経営者を天職だと思い心底楽しんでいるというのが伝わってきますね。それでは、最後になりますがいくつか基本的な質問をさせてください。お好きな本、読み返される本はありますか?

 『ビジョナリカンパニー2』です。自分の経営の考え方に一番近く、感銘を受けた本です。漫画だと、登山ものの『岳』(石塚 真一著)や『PS羅生門』(矢島 正雄著)のような、泣ける人間ドラマが好きです。

 ハードボイルド系だと、ディック・フランシス、レイモンド・チャンドラー、藤原伊織などをよく読みます。ハードボイルド小説は、どれも大枠の流れは一緒。でもその1冊の本の中の1〜2行に、人生の本質をつく大切なメッセージがある気がして。これを見つけた時は必ずその頁に赤線を引いておきます。

--多忙な日々の中で、空いている時間をどのように使っていますか?

 旅行が好きで、よく行きます。以前は海外中心でしたが、最近は、日本国内に目が行くようになりました。あとは散歩ですかね。デスクにいても考えがまとまらないタイプらしく、煮詰まるとぶらっと近くへ散歩に出てしまいます。オフィスが緑溢れる新宿御苑の近くでよかったです。(笑)

--最後になりますが、音楽をやっていれば目指すは武道館、今後は何かしらの形で武道館をめざしたいと思いませんか?

 いいですね!いつか武道館で社員総会をやれるくらい大きくなりたいですね。社員1万人になって武道館で社員総会をやったら盛り上がりそう。その時の最高のバンドを呼んだりして。やっぱり東京ドームではなくて武道館がいいですねぇ。この思い、周りの人にはなかなか分かってもらえませんけど(笑)

Venture BEAT Project
こだまん(児玉 務)

1997年日本アイ・ビー・エム入社。ベンチャー企業との協業、インターネットプロバイダー市場のマーケティングを経て、2000年よりナスダック・ジャパンに出向し、関東のIT企業および関西地区を担当。帰任後は、IBM Venture Capital Groupの設立メンバーとして参画し、その後退職し米国へ留学。パブリックラジオ局(KPFA)での番組放送の経験を得て帰国後の現在は、「“声”で人々を元気にする」をモットーにラジオDJ、イベント司会、ポッドキャスティングの分野で活動中。「Venture BEAT Project」プランニングメンバー。好きな言葉は「アドベンチャー」。

ブログ:「Edokko in San Francisco 2007

趣味:タップダンス、ビリヤード、会話、旅、スペイン語

特技:アメリカンフットボール、陸上競技100m

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