ただし、この「運の良さ」の背景には、それまでに積み重ねた技術開発の歴史がある。ドワンゴは創業メンバーがプログラマーということもあり、研究開発に大きな比重を置いているのだ。
決算資料を見ると、売上高に占める研究開発費の割合は過去5年間の平均が8.0%、直近の2007年9月期に至っては12.0%と、同業他社に比べてはるかに大きい。例えば着信メロディや着うたを主力事業とするエムティーアイは過去5年間の平均が0.1%、インデックス・ホールディングスは0.3%。研究開発費が比較的多いサイバードホールディングスでも5.0%だ(なお、モバイルサービス事業で急成長しているディー・エヌ・エーは研究開発費用という項目で計上していないため、比較できない)。開発者が「ドワンゴは技術の会社」と口を揃えるのはこのためだ。
戀塚氏は、ニコニコ動画を開発した直前に参加した社内プロジェクトで初めてPHPを学び、ウェブサーバの構築に使ったと話す。また、「その2つくらい前のプロジェクトでActionScript(動画プレーヤーに採用したFlashで、ユーザーがコメントを書き込めるようにするためのスクリプト)に対応したパケット定義機能をちょうど追加したところだった」といい、ニコニコ動画を作るために必要な要素技術がちょうどそろったことが大きかったと話す。
それまでに社内で培った、技術を重んじる文化とさまざまな研究開発が、ニコニコ動画という形で実を結んだといっていい。
このほか、それまでモバイルコンテンツ事業を主力としていた経験が生かされている部分もある。
前回の記事で紹介したように、ニコニコ動画は当初、機能をできるだけ絞り、ユーザーの反応を見ながら機能を追加していった。できるだけサイトをシンプルにする、という発想の奥には、モバイルサイトでの苦労がある。
「携帯電話の画面だと、どうしてもごちゃごちゃしたことはできない。工夫できる部分が少ないからこそ、すごく頑張って工夫しないといけないというところがある。その考え方をPCに持っていった」(ドワンゴ ニコニコ事業部第一セクション セクションマネージャーの中野真氏)
サイトの中でできることが少ないということは、ユーザーにとっては「それさえすればいい」という安心感につながる。まずユーザーの心理的な敷居を下げて多くのユーザーを呼び込み、ユーザーがサイトに慣れたところで少しずつ機能を追加してユーザーのリテラシーを高めていった。それが結果として、多くのユーザーが気軽に参加し、長時間滞在するサービスへと成長することにつながったようだ。
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