AIRはアプリケーション開発の流れを支配できるか--アドビのウェブ技術戦略を聞く - (page 2)

文:Martin LaMonica 翻訳校正:吉井美有2007年10月17日 08時00分

―もう1つのニュースは、今後登場するAIR(Adobe Integrated Runtime)を使ったアプリケーションの数ですね。これらはデスクトップ上で実行されるウェブアプリケーションです。AIRはオペレーティングシステムの重要性を下げるものなのでしょうか。

 われわれが現在目にしているのは、アプリケーション開発のウェブへの大規模な移行であり、AIRは基本的にウェブへの移行の大きな流行が一周してデスクトップに戻ってくることを可能にするものです。われわれは、基本的にウェブへの動きに賭けています。あらゆる種類のアプリケーション開発が、既にこの方向に動いています。

 それらのアプリケーションをより洗練されたリッチなアプリケーションにし、ローカルの処理能力を活用し、ユーザーのファイルなどのローカルの資源を利用し、ユーザーに通知する能力を持ったものにしたいという要望が多く出ています。これらはデスクトップアプリケーションでは可能でしたが、現在ほとんどのウェブ上のアプリケーションではできないことです。しかし、このような機能を持つアプリケーションを作ることは可能であるべきだと思いますし、これをウェブ技術を使って作れるべきだと考えています。(まだベータ版である)AIR上で動作しているアプリケーションは数百に上ります。

―AIRはAdobeの製品ラインアップすべてに使われるのですか。

 業界がウェブソフトウェアに向かって動いているように、われわれは確かにその方向へ動いています。われわれは最も洗練されたソフトウェアの部品、例えばPhotoshopとサーバ技術や多くの奥深い技術を持っており、現在のソフトウェアの作り方から一夜にして移行するというわけにはいきません。まずはこの資産を継承したウェブ用の新製品をお見せすることになるでしょう。

 例えばPremiereです。これは伝統的な手法で作られた優秀なビデオ編集ツールで、パッケージで売られています。現在われわれはPremiereをウェブ上でホストしており、YouTubeやPhotoBucketへ行けば、Premiere Expressというブランドがついています。Premiereチームがこれを構築しており、その構築には(スクリプト言語のような)ウェブ技術が使われています。

 同じことがPhotoshopにも言えます。わが社の最高経営責任者(CEO)であるBruce Chizenは、われわれがPremiereに非常によく似たPhotoshop Expressに取り組んでいることを明かしています。このように、われわれは多くのことに取り組んでいます。

 例えばAIRは、われわれのソフトウェアのさまざまな面で使われ始めるでしょう。例えば、ユーザーがPremiereの機能すべてが必要なわけではなくPremiere Expressを使いたいと思っており、それをデスクトップで動かしたいというような場合です。われわれはこれに今取り組んでいるわけではありませんが、イメージとしてはこういうことです。そして、こういうことには多様性があります。

―それらのホストされたアプリケーションのビジネスモデルはどのようなものになるのでしょう。

 そうですね、Premiere Expressについては、広告共有モデルです。Premiere Expressをホストするサイトは広告で支えられており、Premiere Expressを使うユーザーからの売り上げを分配します。広告モデル、サブスクリプションモデル(使用期間に応じて課金される仕組み)など、ソフトウェアを収益化するあらゆる方法があり得るでしょう。

―開発者はどのようにそれらのウェブサービスを利用するのですか。

 われわれはこれらのサービスに多くのAPIを用意し、例えば音声機能などをアプリケーションに組み込めるようにします。例えばShareについては、われわれがホストしているファイルリポジトリである、文書リポジトリが存在します。誰でも1Gバイトの無料のスペースを得ることができ、誰でも保存されているデータにアクセスし利用するためのウェブAPIが提供されます。これを使って、ファイルを閲覧するユーザーインターフェースを作ったり、独自の画像エディタを作って文書をShareに保存させたりすることができます。開発者は、提供されるAPIを使ってあらゆることができます。

 ビジネス面では、一定量の無料のストレージがあり、その先に広告モデルやサブスクリプションモデルなどで収入を得られるプレミアムサービスを提供していく予定です。

―Adobeはツールに資源を投入していますが、もちろんMicrosoftはツールに非常に強みを持っていて、彼らもウェブ開発の分野に取り組んでいます。どのように競争していくのでしょうか。

 Microsoftとの間には、実際のところ長期にわたる関係があります。このため、われわれが彼らの領域で協力できることもあります。他方、競争関係になるのは、両社が世界最大のWindowsプラットフォーム向けソフトウェアのベンダーである点においてです。

 われわれが競争している分野、例えばウェブツールについては、長い間競争を続けています。ウェブオーサリングの黎明期にわたしはDreamweaverプロジェクトに参加していましたが、Adobeは基本的にはこの市場への最後の参入者でした。すでにFrontPageが出ており、1ダースものツールが既に市場にありました。支配的なツールはまだなく、プロのウェブ開発者に本当に普及しているものもなく、われわれにはこの市場領域が残されていました。われわれは実際に市場へ参入し、コミュニティの心に本当に響くツールを設計しました。よく耳を傾け、フィードバックを取り込みました。これによって、Dreamweaverは驚くべき普及を達成しました。われわれはプロのウェブ開発者向けのDreamweaverでFrontPageやその他のツールを退け、大きく成功することができました。

 このように、Microsoftがソフトウェアに取り組んでいると言っても、ソフトウェア市場で常に勝つとは限りません。わたしがこれまでの状況を見たところでは、顧客を気にかけ、追いつくために競合他社がやっていることに気を取られることなく最先端を走り続けて、次に起こることを考えなければならないのです。そして、競合他社には後を追わせておけばいい。

 リッチインターネットアプリケーションの市場にいるわれわれは、多くの開発者用ツールを必要としています。Flex Builderは新しいツールですが、うまくいっています。われわれはFlex Frameworkをオープンソース化して無料にしました。ウェブ用のフレームワークの多くは、無料でオープンソースです。ですから、この市場でプレイするためにはそれが必要なのです。われわれが望んだわけではないのですが、ルールに従いました。

―Thermo(市場投入が予定されている製品で、デザイナーが自分でウェブアプリケーションを書くためのツール)が参加者の感嘆の的でした。しかし、プログラマーでない人のための開発ツールを作る試みはこれまでも多くの人がしてきました。そこにはどんな限界があるのでしょうか。

 それはわかっています。しかし、われわれはアプリケーション構築のすべての解となる一般的なソリューションを作っているわけではありません。これが大事なことです。われわれは、狙う対象が誰かということをはっきりさせる必要がありました。Thermoは今日リッチインターネットアプリケーションを書こうとする人には必要なものになるでしょう。

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