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垣間見えてきた新聞社のネット戦略--MSN産経ニュースの場合 - (page 2)

別井貴志(編集部)2007年10月04日 08時00分
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 そうはいっても、記者によってはだいぶ意識が変わってきた。イザ!では、紙では書けないことをネットで書くという姿勢の記者ブログがうけている。そして、自分の書いた記事がすぐに掲載され、読者からトラックバックやコメントなどを通じて直接反応が返ってくることをおもしろくてしょうがなくなってきた記者がだんだんと増えているという。

 阿部氏は「現場の壁を取り払わないと『ネット報道』という新しい地平が見えてこない」とし、「意識を変えろ変えろと叫んでも何か具体的な契機がないと動かないので、マイクロソフトから話が来たときにはこれをその大きな契機にできると考え、今しかないとも思った」とパートナーシップを組んだのだ。MSN産経ニュースは、「ニュースの早さと質、量を兼ね備えたネット報道を実現するウェブ・パーフェクト」を旗印に掲げている。

 ただし、このネット報道については、もしくはそれを超えた新しい報道のあり方や具体的な手法などについてはまだ確立されていない。しかし、新聞との比較などからネットですでに取り組んでいるいくつかの試みはある。たとえば、世間が注目する大事件の裁判傍聴は、検事や弁護士、被告人、証言者とのやり取りが朝から晩まで続くことがある。これを新聞記事にする場合はそのうちのごく一部分しか取り上げられないが、ネットの場合はその一部始終をすべて取り上げることができる。

 これを試みた結果は「すごいアクセス数となった」(阿部氏)が、実行するためには1人の記者では無理な話。複数人が入れ替わり立ち替わりバトンタッチしながら書き起こしたので、「事実上ネットに取り組むと記者の仕事は増えるわけだが、これが新しい報道のあり方の1つなので、新しいサイトでもいろいろな手法はどんどん取り入れていく」(阿部氏)という。

 こうした中で新聞とネットのメディアはどういった関係になっていくのだろうか。産経デジタルの阿部氏は「ネットは紙の敵ではないし、むしろ新しい報道のあり方可能にしてくれる新聞社にとってありがたいもの」という認識を繰り返す。そして、「米国の状況と比較してもしょうがない」ともした。

 米国では、どこの新聞社が最初に印刷を止めるか、つまりネットへ完全にシフトするかということが話題になっているが、阿部氏は「日米では事情がまったく異なる」と、この流れがそのまま日本にも来るという議論に反論した。米国の事情だけを考えても、急成長していて徐々にネットへシフトしていることは事実だが、新聞社全体の収入に占めるネットの収入はまだ平均でだいいたい4%程度(直近では10%という見方もある)しかないと言われている。

 そして、日米の比較でいえば記者の数や販売部数、地理的特性などがまったく異なり、ましてやネットの広告単価が日本の10倍以上で大きな開きがある。つまり、ネットだけの収入で新聞の収入をまかないきれる状況に、いまの日本はないというわけだ。そのため阿部氏は「紙もネットもそれぞれの特性を活かした方策を考えることが重要だ」と語る。

 こうした一方で、マイクロソフトの笹本氏は「メディアを語る際には、やはりユーザーのことを考えることが重要だ」と指摘する。日米のユーザーで大きく違うのはメディアや情報への接触姿勢だという。日本人はどちらかというと受動的で、欧米人は能動的。メディアとしては、オンラインは検索して情報を探すという意味で能動的な人に向いており、紙やテレビは受動的な人に向いているメディアだ。「日本人も能動的な人が増えてはいるが、まだまだ受動的なメディアに接触したいという人がたくさんいるので、こうしたユーザーのニーズを理解してサービスを提供するということを念頭におかなければだめだ」(笹本氏)と強調した。

 この点は、阿部氏も「インターネットがユーザーや読者のニーズを多様化させたので、このニーズを的確につかみ、それに沿ったかたちで情報を提供しなければだめだ」と同意した。そのうえで、「新聞は一覧性がいい、新聞の1面トップはこれです、ニュース価値はこうですと提供されるのが好きな人は引き続き新聞を買うだろうし、重要なのはこれですと1面トップで指摘されるようなパッケージ化された情報の提供が嫌だと思う人はネットなどで見るだろう」と述べ、報道機関としてはどちらか一方ではなく、両方のニーズに対処していくことこそが大切だという。

 ただし、阿部氏は「50年後など、もっと長い目で見ると紙はなくなるかもしれない……、しかしビジネス的にみてもそれは本当にまだまだ先の話」とも付け加えた。

 そのビジネス面では、MSN産経ニュースの収入のほとんどは広告で、2社でそれをシェアする。そして、今後はMicrosoftにとって過去最高額の買収となったデジタルマーケティングサービス企業であるaQuantiveの広告配信システムを日本でも導入して、ターゲティング広告などを積極展開していく。

 また、MSN産経ニュースでは記事掲載期間(無料で読める期間)を、これまでの3カ月間から6カ月間に延長した。記事を掲載してから6カ月後には、その記事は原則読めなくなる。阿部氏は「関連記事を付与すると、記事に深みがでて読者がより見てくれる。こうした過去記事に対するニーズがあるので掲載期間を長くした」と説明した。

 それならば、期間を設けなければいいのではないか。これについて阿部氏は、「イザ!を立ち上げるときも今回もそうした議論はあった」と振り返りつつ、「有料で記事データを販売していることもあるので、ビジネスとニーズを天秤にかけると、すべての記事をいま一気に無料で提供していくというのはまだ難しいと判断せざるを得なかった」と言う。

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