「遊びをせんとや生まれけむ」--生みの親が語るファミコン成功の秘訣 - (page 3)

永井美智子(編集部)2007年09月30日 14時55分

遊びとは普遍的なもの

 ファミコンの歴史を振り返る上で、上村氏が重視しているのは「ビデオゲームのノウハウだけでファミコンが作られたわけではない」という点だ。販売面では玩具業界が牽引する形で市場を拓くなど、「おもちゃなどのノウハウがうまく組み合わさって(ファミコンという)新しい遊び道具が生まれ、それがゲーム産業の基礎を作り上げた」

 「技術だけではなく、使えるもんは何でも使おうという貪欲さが良かった」

 玩具業界は、ファミコンの技術が優れていた点や先進的だったという点に注目したわけではない。あくまでもおもちゃとして面白いという点に目をつけ、子どもたちに紹介していった。

 「自分が子どものとき、口頭で約束事をつくって友達と遊んでいた。その中身をビデオゲームはうまく閉じ込めた。それに相手はコンピュータだから、何回でも文句を言わずに同じことをやってくれるので1人でも遊べる。その気持ちを大人になっても持っていたし、玩具メーカーにとってはその気持ちが一番大事」

 ゲームはあくまでも遊びであり、それは普遍的なものだという思いが上村氏を支えている。

 「面白い、というものは長い歴史の中で育まれていくもの。ビデオゲームができたことで面白さは変容していくが、鬼ごっこのように生活のちょっとしたことの中にも面白さはある。その気持ちを世界中の子どもたちがみんな持っていて、それをビデオゲームを通じて感じてくれた」

 「音楽は国境がなくて羨ましいと思っていたが、実はゲーム、遊びにも国境がなかった。欧米にもいろいろな遊びがあって、共通した部分をうまく取り入れたゲームはあっという間に世界に広がる。それが(ファミコンが)売れた理由かな、と思う。世界中に何の問題もなく受け入れられる商品はあまりないが、ゲームはその数少ないものの1つだ」

 立命館大学大学院で現在教鞭をとる上村氏が、若いゲーム開発者に伝えたいのも、遊びという感性の重要さだ。

 「遊びは消えていくものだが、ビデオゲームなら形として残せる。ぜひ誇りを持って生活の中で大事な遊びを伝えていって欲しい」

 ゲームは遊びという感性と技術の融合だと言える。ただ、「遊びは手段だけ変わっても中身は変わらない」と上村氏は言う。「勉強では手に入らない世界。経験しかないので、日常の中で『これ面白い』というものに対する感性をどう養うかだ」。もちろん技術を軽視しているわけではなく、感じたものを形にするためにはむしろ技術の研究は必須だと上村氏はいう。ただ、技術はあくまでも手段にすぎないというのが上村氏の考えだ。

 実はこの講演が開かれたのは、東京大学の安田講堂。「こんなとこでゲームについて喋ることになるとは、世の中も変わったね」と照れくさそうに笑いながら、歴史を重視する上村氏らしく、平安末期の和歌で講演を締めくくった。

遊びをせんとや生まれけむ
戯(たわぶ)れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声聞けば
我が身さえこそ動(ゆる)がるれ

 これは1170年ごろに後白河院が編纂した歌集「梁塵秘抄」に収められた和歌で、遊びの世界を表現している。「生まれたからには遊ぶものであり、遊んでいる子どもの声を声を聞けば自然と体が動いてくる」といった意味だ。

 「これからもこういう気持ちでビデオゲームを育てて欲しい。ゲームは高齢者から子どもまでみんなが、しかも世界中が楽しめる、楽しいエンターテインメントの1つなのだから」

岩谷氏(左)と上村氏(右) ゲーム業界の「神」と呼ばれる岩谷氏(左)と上村氏(右)

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