デジタル化が進んだ現代では、昔に比べて自分の創作物を発表、流通させることが簡単になった。また、コンテンツの引用や再利用もデジタルデータであれば簡単だ。しかしその一方で、著作権をめぐる問題も多く表面化している。
デジタルコンテンツの流通を促進する著作権制度とは、どうあるべきなのだろうか。9月21日に東洋大学白山校舎にて開催された、情報通信政策フォーラム(ICPF)が主催する第5回シンポジウムでは、6月から過去3回に渡って開かれたセミナーの集大成として、著作権問題に深く関わる専門家、研究者による討論が行われた。
登壇したのは、慶應義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 特別研究准教授の岸博幸氏、国立美術館 本部事務局長 兼 西洋美術館 副館長で、前文化庁 著作権 課長の甲野正道氏、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)企画部部長の野方英樹氏、情報セキュリティ大学院 大学副学長の林紘一郎氏の5名。モデレーターはICPF事務局長で東洋大学教授の山田肇氏が務めた。
過去3回に行われた著作権に関するICPFでの議論で明らかになったこととして、ICPF事務局長を務める山田氏は現在の著作権問題をロングテール理論を用いて説明した。
著作者の経済的利益の大きさを縦軸、著作者の利益の重視度合いを横軸とした場合、利益を重視し、大きな利益を得ているのは一部のプロと呼ばれる人であり、ブログ執筆者など利益を大きく追求しない人々は長い尾の部分にいるという。山田氏は、「これら著作者全員が満足する単一の著作権法は無理」と述べた。また、著作権侵害については、プロとアマチュアの作品が乱雑に置かれ、利用者が区別できない状態が問題であると述べた。
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の岸氏は、現在のインターネット上のコンテンツについて、政府は流通を増やすことばかりを推奨し支援していると指摘した。本来ならば文化の底上げ、新規ビジネスの展開など、コンテンツの流通は何らかの目的を達成するための手段となるべきものだ。流通させること自体を目的としていることが、山田氏の指摘した「プロとアマチュアの作品が乱雑に置かれること」の要因になっていると述べた。
現在、国内の著作権法は、国際条約で定められている申請・登録などの一切の手続きを必要とせず、創作された時点で自動的に付与される「無方式主義」に準じている。これに対し、著作権所有者に登録制を敷く権利制度を別に作り、現行の国際条例に準じた著作権法を変えずに関連法規として矛盾なく運営する「二階建て方式」というシステムの制定を進めるべきだという案が持ち上がっている。
これについて国立美術館本部事務局長 兼 西洋美術館副館長の甲野氏は、発想は面白いとしながらも、現時点では有用な策まで昇華できないのではないかという疑問を呈した。
情報セキュリティ大学院 大学副学長の林氏は、国際条約の「無方式主義」は創作者のリスクを免除するために、利用者にコストを負担させていると指摘。デジタルの世界においては、この「無方式主義」を変えていけばいいのではないかという持論を披露した。その一例として、デジタル技術によって著作権取得を表示するマークを作り、認証局に電子メールなどで証書を発行させるとともに、そのマークを自サイトに貼り付けるだけで届け出を完了させるというシステムの案を挙げた。
著作権問題に明るいジャーナリストの津田氏は、魅力あるコンテンツがコンテンツプロバイダからネット上で提供されていないことから、交換ソフトやYouTubeなどを使って違法コンテンツが流通しているのではないかと指摘した。ニーズに応えていないからユーザーは違法な方向に流れる。それが権利者を頑なにし、流通のバランスを悪くする。著作者にもユーザーにも良いスパイラルで流通が起こるようにするには、著作権法を改正することが必要だとし、音楽におけるJASRACのような集中管理機構による部分対応が有効ではないかと述べた。
一方、JASRACの野方氏は、「著作権法は障害ではない」とし、その理由を現在のJASRACの著作権等管理事業法に見出していると明言した。JASRACのような著作権管理団体が存在することで、楽曲を使いたい人が分散している権利者を1人1人探さなくて良いという利点があり、著作権法が流通の障害ではないと語った。
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