今回からこのコラムに寄稿させていただくことになった。私は1982年に旧旭通信社に入社し、典型的なマスマーケティングを展開するナショナルクライアントを中心に約15年間携わり、その後は一転、自ら起案したインターネット広告のメディアレップDACの経営に身をおいて来た。日本のネット広告が立ち上がった1996年からである。当初は「チープなバナー広告」と揶揄されていたが、ネット広告はこの年16億円であったものが、2006年には3600億にもなり、広告界での一定のポジションを確立することができた。
マス広告の黄金期に15年、ネット広告黎明期から10年、この両方に携わることができたことは実にラッキーだったと思う。というのも広告ビジネスの変革の方向と、次世代広告ビジネスに必要な人材とそのスキルに関して具体的にイメージできるようになったからだ。その意味でこのコラムは日頃関心をもっていたテーマそのものといえる。
今後の広告ビジネスは、マス広告のスペース販売を前提に、そのために必要な各種サービスを提供するという従来のビジネス構造が変質することになる。言い方を替えると、メディアレップとクライアントレップという本来相容れないことを両方こなしてきた極めて特殊な日本型広告会社の業態から、当然あるべき姿になっていくのだと考える。その変革の最大の要因がネットによるメディア(コミュニケーション)とマーケティングの変化であることはいうまでもない。
従来のマス広告枠にクリエイティブを載せることを前提にした、あるいは「Above the Line」と「Below the Line」がそれぞれ機能していた広告ビジネスは、これから10年で大きく様変わりする。そのときに必要とされるスキルをもった広告マンはどこでどのように養成されるのか。これが一番のテーマである。
さて、ネット広告はこの10年間余り急成長を続けてきたが、その大半はウェブを顧客獲得装置としたダイレクトマーケティングの顧客誘導ツールとして活用されてきた。しかしここへきて、従来マス広告を主体とするマスマーケティング企業にこそ、ウェブのインパクトが大きくなったといえる。それは企業ウェブの自社メディアとしての機能拡大やCGMの台頭によるコミュニケーション構造の変化に起因する。従来のマス広告展開は効果的でなくなっており、広告コミュニケーションをリモデルすることが求められている。
こうした状況で、次世代の広告コミュニケーションの担い手を、広告主企業が自社内に囲い込む傾向が強くなると思われる。企業ウェブがメディア化し大きな影響力をもつと、そのなかのコンテンツ開発は極めて重要なテーマであり、またマス広告枠を前提としないので広告会社の協力を必ずしも必要としない。ネット社会のコミュニケーション文化に精通したコンテンツ開発者を社内に取り込むのは必然的な動きといえる。
また、メディア販売を前提としない完全なクライアントレップとしての広告コミュニケーションブティックのような存在がでてくるチャンスでもある。ただし、広告主企業がこうしたコミュニケーションコンテンツ開発に正当な対価(フィー)を払うことが前提だ。
広告というサービス業態の優劣は、メディア販売能力(枠を抑える力)からその人的スキルの力に大きく舵を切る。このコラムではこれからの広告マンに求められるスキルについて考えてみたい。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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