今年に入り区域外再送信をめぐり、CATV事業者の大臣裁定申請が相次いでいる。その第1弾、大分県CATV4社の申請に総務省は“満額回答”した。地デジ時代に降ってわいた裁定騒動には、CATV事業者、民放局、総務省の三者三様のお家事情がある。(阿部賢一郎)
≪CATV≫
■ドル箱コンテンツ
CATV事業者の裁定申請が相次いでいるのは、地デジ開始以降、民放局がデジタル放送の区域外再送信に難色を示しているからだ。CATVにとって、民放局の番組は対価も払わず利用できる“ドル箱コンテンツ”。地デジを視聴できなければ加入者の減少は避けられない。
また、アナログ放送を違法に再送信してきたCATV事業者のなかには、「このままでは地デジを再送信できなくなるため、裁定に打って出て合法を勝ち取ろうとしているところもある」(放送業界関係者)。
≪民放≫
■制度見直しを要求
民放局が区域外再送信に反発する背景には、CATV業界の発展がある。難視聴地域の補完メディアとして1955年に始まったCATVは、中小零細事業者が多かった。国は地上波放送を全国にあまねく行き渡らせる政策上、CATV事業者を保護し、民放局側も、区域外再送信について目をつぶってきた。
だが、その後CATVが発展し、いまや民放局のライバルとなった。総務省によると、自主放送を行うCATVの加入世帯数は2006年度に2061万世帯で、世帯普及率は40・3%。
日本民間放送連盟の竹内淳デジタル推進部長は「もはや中小零細事業者ではないCATV局に区域外再送信を認めれば、その地域の民放局は視聴率が下がり、広告収入は減り、経営的に打撃を受ける。実際に、被害を受けている民放局も少なくない」と指摘。その上で、「区域外再送信には放送事業者の同意がなければならないとある。同意するかしないかは、放送局の判断に任せられているはず。裁定という行政指導で放送局に同意を強制する必要はない」と制度の見直しを求める。
≪総務省≫
■完全移行に危機感
民放局の反発を承知で出された裁定には、11年の地上デジタル放送完全移行への総務省の危機感が見え隠れする。
放送アナリストの佐藤和俊氏は「2011年の地上デジタル放送への完全移行のため、多少の制度の齟齬があっても視聴者保護を優先する姿勢のあらわれ」とみる。
放送業界関係者の間には、放送局の負担増や機器の普及度合いから、10年の段階で1000万世帯がデジタル化から取り残されるとの見方がある。
佐藤氏は、「地上デジタル放送の普及を促すのであれば、CATVはじめIPネットワークも含めて利用できるものはすべて利用する」という立場から今回の裁定は行われたと解説する。
ただ、情報通信審議会の有線放送部会が9日にまとめた答申でも、区域外再送信、大臣裁定の問題点が指摘されており、総務省としても制度の見直しは不可避だ。このため今秋にも研究会を立ち上げ、対価の授受を含めた再送信制度の見直しと、裁定制度のあり方についての議論を始める予定だ。
その行方を左右しそうなのが、長野県CATV2社による在京キー局を相手にした裁定申請。
佐藤氏は「長野県のCATV2社はアナログ放送でも違法再送信中。この状態で、地デジの再送信に同意するような裁定となれば在京キー局は裁判に訴えるしかない。裁判となれば制度の正当性自体にもメスが入り、問題点も整理される」と話す。
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