あなたのパソコンは、電源を入れてから実際に利用できるようになるまでどのくらいかかるだろうか。30秒?1分?コーヒーを淹れるために席をたって、戻ってきたぐらいがちょうどいい頃合い、という人もいるかもしれない。そして多くの人はこの状況を変だと思いながらも、コンピュータに自分を合わせているのではないだろうか。
こんな時代はもうすぐ終わる、と予言する人がいる。米国ベンチャーキャピタルDEFTA Partners会長の原丈人氏だ。原氏は慶応義塾大学卒業後、米国に渡り、ベンチャーキャピタリストとして情報通信技術分野で数多くのベンチャー企業の育成と経営に携わった。6月には平凡社より自身初の著書となる「21世紀の国富論」を出版した。
「21世紀の国富論」の中で原氏は、コンピュータ中心の時代はまもなく終わると指摘する。コンピュータはもともと計算することを目的に作られており、インターネットや通信など、コミュニケーション用途には向いていないからだ。
次に主役となるのは、「パーペイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ(PUC)」というコミュニケーションを前提に作られたアーキテクチャだ。人間にとってより使いやすく、現実に存在する複雑なデータも処理できるPUCは、かつての繊維産業、鉄鋼産業、IT産業に次ぐ、新たな基幹産業の核になるという。そしてそこでは日本が世界の中心になれると原氏は説く。
原氏はいったいどのような未来を描いているのか。PUCの意義や、そこで日本企業の果たせる役割、さらにはベンチャーキャピタリストとして感じている、ヘッジファンドや株式市場のROE(株主資本利益率)至上主義への批判について、CNET Japanに語ってくれた。
パーペイシブというのは、「使っているのを感じさせない」という意味です。人間にとって必要なコミュニケーション機能を、本当に使いやすく、しかもどこでも利用できるようにするものがPUCという考え方です。
いま広く使われているコンピュータというのは文字通り(compute=計算の意味)、計算機能中心主義のアーキテクチャですから、プログラミングなど計算用途に使うには最適な道具です。しかし、インターネットが出てきてから、パソコンを計算目的で使っている人はほとんどいませんよね。Eメールなどのコミュニケーションや、それに関連して検索サービスなどを使うことがほとんどでしょう。
もともと計算機能を最適化するために作られている道具を、違う目的であるコミュニケーションのために使うとどうしても使いにくい。そうなると、人間が機械に合わせないといけなくなってくるんです。
この傾向はパソコンでなくエンタープライズ向けのシステムにも当てはまります。人間の思考パターンをコンピュータのロジックに合わせて、「余計なことは考えない」というほうが効率は上がります。ただ、こういう仕組みをクライアントからサーバまで一元的にあてはめていくと、人間にとっては非常に住みにくい世界になります。
そうではなく、もっと人の相互コミュニケーションを最適化するようなものであるべきだと考えたんです。PUCはコミュニケーションを前提に設計され、ハードウェアとソフトウェアが一体化し、直感的で使いやすいものになります。
PUCを実現するには、次世代の通信デジタル信号処理プロセッサや組み込み型のソフトウェア、ネットワークセキュリティ、PtoP型ネットワーク、ソフトウェアスイッチング、デジタルディスプレイコントローラなどが必要になります。いずれも研究開発が進んでおり、実用化が見えてきています。
現在のデータベースはストラクチャードアーキテクチャと呼ばれる構造で作られています。しかし実際に人間が直面する問題の多くはアンストラクチャード、つまり構造化されていないものが多いんです。人工知能を使うことで構造化することは可能ですが、それをやるには大きな計算能力が必要になります。
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