そして、この問題が起きている根幹には、「会社は株主のものである」という考え方があります。株主利益、つまり株式価値を増大させることが目的になっている。しかも短期的に、株式総額を上げることが使命にならざるを得ない状態になっています。これを実行するのがヘッジファンドです。
本当の意味での会社の価値を上げようと思ったら、本当はリスクをとって新商品を開発し、それを売ることで売上を伸ばし、利益を出す必要があります。私がかかわった企業の経験から見て、この1つのサイクルには最低でも7年はかかるんです。
ところが、米国のCEOの在任期間は平均で4年ほどです。そうなると、自分のCEO在任中にこれが実現できなくなる。それでは株価が上がらず、ストックオプションが行使できなくなります。個人の利害にとっても、この方法ではまずいとなるわけです。
ROEをあげるもう1つの方法は資産の圧縮です。すなわち、工場や本社などの資産の売却、人員の削減などがあります。だからこそ人材派遣やリース会社はこれまで大きく成長してきたわけです。それから、現金の圧縮です。使わないお金は配当金としてはきだすほうがROEが上がる――。こういった論法になるわけです。
「会社は株主のものである」といいながら、「ヘッジファンドはけしからん」などというのは自己矛盾です。この点を整理する必要があります。
私が今、いろいろなことに影響を受けずに自分の信じることを貫けたのは、学生時代に考古学を学んだ経験が元になっています。目先のことは関係ない、何のためにやっているのかが重要だということです。
ですので、若い人にも自分が何のために生きているのかという理念を、なるべく早い段階で持てるような機会を提供したいと考えています。これからやろうとしている事業の1つに、日本の医者の卵を後発発展途上国――6人に1人の子どもが3歳までに死んでしまうような貧しい国――の中の1つであるバングラディッシュに6カ月間来てもらい、1人でも2人でも子どもを助けてもらう、というものがあります。若いときにそういう経験をして医学部を卒業すると、何のために医者になったかと感じる人は多いでしょう。ほかの人を助けるのがいちばん幸せだということに気づくのは時間がかかるものなので、そういう場を作りたいですね。
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