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株式公開での「2008年3月期問題」

沼田功(ファイブアイズ・ネットワークス社長)2007年08月03日 08時00分
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 2008年3月決算期から、企業の内部統制強化を目的とした「日本版SOX法」が施行される。株式公開においてもこの施行による影響は大きいと考えられる。2008年3月期以前に株式公開をする企業の上場直後の監査体制、また主幹事証券会社の役割。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ4回目は、日本版SOX法の影響について解説する。

公開準備の初期コスト激増

 「日本版SOX法」の詳細は固まっていませんので、株式公開への影響を論じるのは時期尚早でしょうが、多くの推測を交え個人的見解をご披露させていただこうと思います。まず、注目する直接の影響は、「直前々期問題」「2008年3月期問題」の2つです。

 株式公開には直前二決算期(「直前期」と「直前々期」)の監査証明が必要です。このうち直前期は公開会社並みの内部管理体制が求められます。これに対して直前々期は内部管理体制の整備を同時並行で行い、期末の財務諸表が整えば監査証明が取得できる前提で公開準備を進めておりました。

何らかの形で先取りする必要

 ところが、日本版SOX法の世界では、財務諸表監査に加え内部統制監査が求められます。もし公開準備会社にも直前々期に内部統制監査が求められれば、内部管理体制の整備をそれ以前に行う必要があります。

 となると株式公開準備の期間は、現在より最低1年は延びます。直前々期以前に求められる内部管理体制の水準はかなり高くなると思われ、そうなると公開準備の初期コストは大幅に増大します。

 公開準備会社の内部管理体制は飛躍的に充実しますが、公開準備期間は延びてコストは激増し、公開準備の手法は劇的に変わります。これが「直前々期問題」です。

 内部統制監査が導入されるのは2008年4月以降にスタートする決算期からです。したがって2008年3月期を申請期とする会社は、財務諸表監査しか受けた経験がない中で、上場後すぐに内部統制監査の洗礼を受けます。

 取引所や主幹事証券会社が、どう判断を下すか注目しておりますが、「内部統制監査は未経験なので上場後クリアできなくてもやむなし」とはならないでしょう。上場会社すら経験していない内部統制監査を、公開準備の段階で、何らかの形で先取りする必要が出ると思われるのです。

 これが「2008年3月期問題」です。08年3月期前後に申請直前決算期を迎える会社が該当します。

主幹事証券会社の役割が変化

 間接的には、私は主幹事証券会社の役割変化に注目しております。結論から申し上げれば、公開準備のコンサルティング業務から撤退する可能性を感じます。現在は主幹事獲得前の初期デューデリジェンスを充実させることで、「安心して公開できる会社にコンサルティングを提供する」体制を敷いていますが、一夜にして変化するベンチャー企業を相手に、これは現実的な前提とはいえません。

 さらに従来は、資本市場の正義を主軸に据えながらも、ベンチャー企業の現場の思いをくみとった上場審査が行われておりました。日本版SOX法に代表される資本市場の動きは、IPO対象案件拡大の代償として厳正な審査に収斂(しゅうれん)し、「現場の思いをくみとる」公開引受部門の機能は、時代遅れになりつつあります。

主幹事としてのチェック機能に特化

 最近では、大手証券会社の公開引受部門が指導した案件でも、主要取引所の審査を通過できないケースが散見されます。そのため現場はさらに硬直化し、引受証券会社によるコンサルティングの限界が露呈しているように思うのです。

 主幹事としてのチェック機能に特化する方が利益相反も無くなり、顧客との信頼関係も強化されるでしょう。証券会社のコンサルティング料は、審査料の意味合いが強くなるでしょうし、現在もそう受け止められる傾向にあります。何より直前々期以前から銘柄を有料でフォローする、というのは証券会社のビジネスには合わないでしょう。

 内部管理体制の整備が早期に妥協なく求められ、ここを担う機能は主幹事証券会社でも監査法人でもないとすると、私たちのような株式公開コンサルタントにもチャンスが生まれる、と思うのは自分本位の見方でしょうか?

記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)

ファイブアイズ・ネットワークス沼田功(ぬまた・いさお)

1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。

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