古くなっても旧くならないデジタルカメラ--お気に入りガジェットバトン第21回

自分のための写真を楽しむカメラ

GRレンズのフードはげ、純正ストラップもボロボロの愛機R-D1。ヨーロッパなどで必要以上に目立たぬよう、メーカー名や製品名のロゴは黒のパーマセルテープで覆ってある GRレンズのフードははげ、純正ストラップもボロボロの愛機R-D1。ヨーロッパなどで必要以上に目立たぬよう、メーカー名や製品名のロゴは黒のパーマセルテープで覆ってある

 現在主流となっている液晶ディスプレイを持つデジタルカメラの原型とも言える、カシオQV-10の入門書を書いてから12年余り。今や、当時のQV-10の価格で、デジタル一眼レフカメラを購入できる時代になった。

 1台のカメラに万能さを求めるならば、とりあえずデジタル一眼を買い求めれば間違いはない。しかし、個人としてはデジタル一眼の万能性には興味がわかず、さまざまの用途に特化した個性的なデジタルカメラを、目的に応じて使い分けて楽しむ道を選んでいる。

 たとえば、今のところ取材中のメモカメラは全天候型のSANYO Xacti DMX-CA65、フォトビューワー的な役割は約2万枚までのVGAイメージアーカイブを自動で作り出すSONY Cyber-shot DSC-G1、高感度が必要な場合にはFUJIFILM FinePix F30、立体写真撮影用には型落ち品を安く購入したPENTAX Optio S4(×2台)といった具合だ。

 しかし、仕事から離れて旅行などに出かけ、自分のための写真を撮りたいと思うとき、手を伸ばすのはいつも決まってEPSONのR-D1である。2004年3月の正式発表時から心待ちにし、同年7月30日の発売と同時に購入したR-D1は、ちょっとカメラに詳しい人ならばご存じのように、コシナの光学技術とエプソンのデジタルイメージング技術を融合した製品であり、LEICA R8が出るまでは、市場で唯一のレンジファインダー式デジタルカメラであった。

ズレを楽しむつもりでシャッターを切る

セイコーのクロノグラフのモジュールを利用したアナログ式の計器や、実際にシャッター機構をチャージするための巻き上げレバーも、R-D1の操作を楽しいものにしてくれる セイコーのクロノグラフのモジュールを利用したアナログ式の計器や、実際にシャッター機構をチャージするための巻き上げレバーも、R-D1の操作を楽しいものにしてくれる

 レンズを通った光が、ミラーやプリズムを介してそのままファインダーに導かれる一眼レフと異なり、独立した光学系で測距とフレーミングを行うレンジファインダー機ではファインダーの見え方が素通しに近く、シャッターが落ちる瞬間にも被写体がブラックアウトしない。特にR-D1は、片方の目でファインダーを覗いた状態で、両目を開いて被写体を捉えても違和感のない等倍ファインダーを実現しており、一度これに慣れると、他のデジタルカメラのファインダーには何だか閉塞感を覚えてしまう。

 逆にレンジファインダー機では、ファインダーの視野とレンズが切り取るイメージには、原理上避けられない僅かなズレがある。これを欠点と考える向きもあるが、僕は、人が抱いたイメージを窯が完結させる陶芸のように、写真も人間とカメラのコラボレーションによって生まれるものと考えているので、逆にそのズレを楽しむつもりでシャッターを切る。

 R-D1は、ライカMマウント互換のバヨネットマウントを採用し、マウントアダプタを介して古今東西のさまざまなレンズを装着可能だ。しかし、レンズグルメではない僕は、広角~標準系のレンズを3、4本しかもたず、たいていはRICOH GR 28mmか、LEICA Hektor 28mmを付けて撮っている。

R-D1ならではのチャームポイント

撮影時にはあくまでも等倍率ファインダーを用いる設計で、回転式の液晶ディスプレイは、メニュー設定と再生専用。数字が刻まれた丸いプレートは、レンズの焦点距離の換算表 撮影時にはあくまでも等倍率ファインダーを用いる設計で、回転式の液晶ディスプレイは、メニュー設定と再生専用。数字が刻まれた丸いプレートは、レンズの焦点距離の換算表

 もちろん、手ブレ補正はおろかオートフォーカスとも無縁のR-D1だが、スナップ中心の僕の取り方ではそれで困らないし、1枚撮るごとにレバーでチャージするシャッター機構も、撮影のリズムをつかみやすくて気に入っている。それは、さすがのLEICAR8も採り入れなかったR-D1ならではのチャームポイントだと言える。

 難点は、塗装が剥げやすく、一見すると樹脂のような白い下地が現れること。これは実はマグネシウムシャシーの色で、もう見慣れたものの、このあたりの仕上げにもう少し重厚感が欲しいところだ。それでも、目まぐるしくモデルチェンジされるデジタル一眼とは違い、この3年で一度だけマイナーバージョンアップがあっただけのR-D1は、機械として古くはなっても製品としては決して旧くならず、隣の芝生が青く見えることもない。CCDはAPS-Cサイズで有効画素610万画素にすぎないが、無理に高画素化していない分、素性の良い画が撮れ、A3くらいまでの印刷ならば十分対応できる。

ハンガリーの首都、ブダペストを構成するブダとペストの2つの地区のうち、旧市街側に属するブダの丘の上にて ハンガリーの首都、ブダペストを構成するブダとペストの2つの地区のうち、旧市街側に属するブダの丘の上にて

 ちなみに、僕のR-D1は基本的にモノクロ撮影モードに固定してある。モノクロ写真は、見る人の想像力をかき立て、それぞれのストーリーを喚起するところに魅力を感じるからだ。そして、後からレタッチで色を抜くのではなく、最初からモノクロの眼で被写体を捉え、迷いのない写真を撮ることを心がけている。ここに、そんな写真の何枚かを集めてあるので、興味のある方はご笑覧あれ。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」の撮影で使われた教会のある、オーストリアのモンドシー(月湖)湖畔にて 映画「サウンド・オブ・ミュージック」の撮影で使われた教会のある、オーストリアのモンドシー(月湖)湖畔にて

 奇しくも、R-D1を購入してからちょうど丸3年というこの時期にガジェットバトンの原稿依頼が来たのも、何かの縁かもしれない。今後、仕事や映像メモ用のカメラがすべて新しい製品に取って代わられても、唯一無二のR-D1は、マグネシウムの地肌がすべて露出するまで使い続けていくことになりそうだ。

大谷和利氏プロフィール

テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。各種Macintosh専門誌、「Photographica」、「AXIS」、「自転車生活」などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「AppleDesign日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。


【使用製品】

EPSON R-D1


【購入時期】

2004年7月30日

【お気に入り度合い】

万能ではないから自分の写真が撮れる理想のスナップカメラ。

【次回執筆者】

山路達也さん


【次回の執筆者にひとこと】

Product Design World誌の取材でタッグを組んだ山路さんは、日本中を飛びまわる編集者/ライター。そんな彼がはまっているのは、レトロな技術をPCに対応させ、何やら「鮫」にも関係しているあるモノ。楽しみです。

【バトンRoundUp】

START: 第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) → 第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) → 第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) → 第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) → 第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) → 第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) → 第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) → 第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) → 第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) → 第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ) → 第12回:高橋隆雄氏(傭兵たるものガジェットなど持たぬ!) → 第13回:野本響子氏(「壊れても買い続けたい」理想のロボット) → 第14回:本田雅一氏(本田雅一氏の求める条件にピッタリはまる「あのデジカメ」) → 第15回:塩田紳二氏(紙に書いて「デジタルデータ」になるアイテム) → 第16回:山田祥平氏(山田祥平氏が愛用する移動時間の必須アイテム) → 第17回:元麻布春男氏(元麻布春男氏が「感心した」ガジェット) → 第18回:鈴木淳也氏(ノートPCモバイラーに必須のアイテム) → 第19回:小山安博氏(ライフスタイルを快適にするアイテム) → 第20回:海上忍氏(最強の“心理的防音ルーム”を実現するアイテム)

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