logo

63歳の世界的デザイナーが挑む、新しきウェブデザインの世界

永井美智子(編集部)2007年05月14日 15時00分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 日本航空の鶴を使ったマーク、ティファニーの広告デザイン、楽器メーカーであるナカミチのコンセプト設計――これらのすべてに携わった日本人のデザイナーを知っているだろうか。米国ニューヨークに本拠を置くKatsuji Asada氏がその人だ。世界的なブランドのデザインやアートディレクションを数多く手がけるAsada氏が、新たな活躍の場としてウェブの世界に飛び出した。

 インデックス・ホールディングスとサイボウズの共同出資会社であるZINGAが開発したビジネスパーソン向けのコミュニケーター「Zinga」。PCと携帯電話の両方に対応し、メールや電話などビジネスパーソンが業務に必要な連絡をすべて一カ所で取れるようにしたサービスだ。Asada氏はこのサービスのアートディレクターを務めている。

 ZINGA代表取締役社長の大森洋三氏と旧知の仲であったことから実現した今回の企画は、インターネットサービスのデザインの世界に新たな考え方を持ち込むと同時に、これまでほとんどウェブデザインに携わることのなかったAsada氏にとっても大きな刺激になったようだ。Zingaのデザインに込めた想いやウェブデザインの世界に生きるデザイナーたちへのアドバイスをAsada氏に聞いた。

――特にウェブデザインの分野では、「デザイン」というと画像や動画の制作、配置を指し、全体のコンセプトをいかにウェブ上に具現化するかというところにまで至っていないと感じます。

 ウェブの場合は、常に技術が裏にあります。その構築に時間もかかるし複雑でもある。だから、今まではそれで許されてしまったんですよね。プロダクト自体が新しいから。技術がわかる人でないと(制作の分野に)入ってこれなかった。

 でも、もうそろそろ、作り手はお金をいただいているんだから、プロダクトとしてユーザーとちゃんと優しく親切にお付き合いする必要があるんじゃないか。常に僕はそう思っています。

 ZingaはすべてFlashでできているんですが、僕はFlashのことも何もわかっていないんですよ。だから逆に、あまり気にしないでわがままを言わせてもらえる。一緒にやったデザイナーの方もすごく若い方で、「今までそういう考え方をしなかった」と。今までは技術の人たちがそばにいて、ものを軽く作るということに気を取られて、「優しい」とか「シンプルだ」というところがずれちゃった。

 僕はグラフィックの中でも、ものを省くことがデザインだと考えているんです。デザイナーは今までものをくっつけすぎた。ものを省いていくと、シンプルで、すごく強くて、きれいでなかったら残らないんですよ。例えば花瓶も花が入っていれば花瓶になるけれど、花も入っていない状態で置いてあったらただの瓶でしょう、どんなに美しくても。

 Zingaのデザインで言うと、何回も線がなくていいじゃない。「でも線を取ってしまうと見えにくいんですよね」とデザイナーが言うから、見えないならグラデーションでバーにして交互にすれば、端から端まで見えるじゃないかと。縦も横も線だらけになっちゃうと、文字より線のほうが先に目に入っちゃう。

 これはものをシンプルにというだけの話ではなくて、僕が35年ニューヨークにいて、米国の合理性を肌で感じたところからも来ているんです。彼らは本当に余分なものにはお金を使わないし、素直でイエスかノーがはっきりしている。デジタルみたいな世界ですよね。日本は白黒以外にグレーの世界があるので、それはいいときも悪いときもある。

Zingaの画面 Zingaの画面デザイン。線を極力減らし、グラデーションや色の違いで区別を示している

――Zingaの制作、開発チームとはその考え方を共有できたというわけですね。

 Zingaは僕がどうのこうの言うわけではなくて、チームで作ったものなので、みんながすごく高いレベルでそういうことを意識してくれたと思っているんです。今までデザイナーや開発者だけで作ってきたところに、何も知らないアートディレクターが入って来た。グラフィック上がりの人があれこれと言うけれども、そこに一理あるんじゃないか。だから、僕をZingaのチームに入れてくれた。僕も初めからこれはチームの仕事だと、一緒にものを作りたいんですと彼らに言いました。

 僕たちは――これだけ一緒にいるから今は「僕たち」と言っていますが――これはビジネスツールじゃなくて、サービスだと思っています。作ってからぽんっと渡すのはツールでしょう。でもサービスというのは生きもので、常に進んでいく。それはユーザーと一緒になってできあがっていくものじゃないかと思っています。

 ただ僕たちの姿勢は、ユーザーに押しつけるんじゃなくて「こういうものはどうですか」っていうもの。僕たちも学びたい。もっと使いやすいもの、もっと親切なものはどんなものかというのを、作る側、企業側もそろそろ話し合わなければならないんじゃないかといつもチームのメンバーと話しているんです。

-PR-企画特集