北氏はこれら諸外国の事例は、「むしろ日本型に近づいてきている」と総括した。
しかし同時に北氏は、こうした事例が日本市場に示唆するものは、決して日本の販売奨励金モデルの正当性を裏付けるものではないと強調した。「欧米は現在、2.5Gから3G、プリペイドからポストペイへの移行フェーズにあり、移行促進のために販売奨励金が積み増しされている。では、日本市場は一体いま、どのようなフェーズにあるのか」と北氏は、日本市場の現状認識に対して改めて問題提起した。
また、販売奨励金が上積みされることで端末を頻繁に買い換えるユーザーと、そうでないユーザーの間に料金負担の不公平が生じているという日本市場の問題点についても、「日本が世界で初めて直面した問題」(北氏)とし、むしろ欧米では今後顕在化してくる問題になるかもしれないと指摘。その上で「モバイル先進国日本のさらなる成長・新市場創造に資する、日本発のモデルを考える必要がある」として報告をしめくくった。
諸外国の事例報告に次いで、今後の研究会で討議・決定すべき主要な論点についての「主要検討項目・1次案」が、総務省の総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課課長の谷脇康彦氏から説明された。
谷脇氏は、わが国のモバイルビジネスについて、「キャリア主導の垂直統合モデル間による競争が主流になっている」という現状認識を改めて示し、その上で日本市場の特徴として以下の7点、すなわち、(1)市場の成熟化(2)シェアの固定化(3)料金プランの複雑化(4)端末・サービスの一体化(5)ハイエンド端末中心の市場構造(6)モバイルコンテンツの潜在成長力(7)法人市場の潜在成長力──を挙げた。
その上で谷脇氏は、モバイル市場の急激な進化に伴い、競争促進措置として速やかに行うべきものを「第1フェーズ」、2011年(放送の完全デジタル化が実施され、通信がIPベースに移行すると見られる年)までに段階的に実施する措置を「第2フェーズ」と区別し、段階的に行っていくことを提案した。また競争促進措置の方向性としては、「垂直方向・水平方向の公正競争を確保し、各レイヤー間のオープン化を通じたオープン型モバイルビジネスの環境実現を、これからの競争政策の機軸にすえることが必要ではないか」と提起した。
そのために実施すべき各種の措置の1つとして、MVNOがMNOに対して情報開示の点で「情報劣位」にあるとの認識を示し、先に総務省が定めた「MVNO事業化ガイドライン」について、市場のモニタリング(監視)を続けていくとした。「固定網と同様に、設備を持っていない事業者でもモバイルでFMC的なサービスが実現できる環境ができれば望ましい」(谷脇氏)。
引き続き、谷脇氏の報告について研究会の構成員より質疑や提案が行われた。
研究会座長を務める東京大学名誉教授の斉藤忠夫氏は、MVNOへの適正な回線リセール(卸売)価格を判断する上で重要な原価計算に関わる、販売奨励金の経理上の区分けにについて谷脇氏に質問した。「通信費用の中に入っているのか、それとも別の項目に入っているのか。各社の会計上の具体的な処理を、研究会事務局で整理して報告してほしい」(斉藤氏)。また、携帯キャリア各社が実施しているポイントシステムについても言及。携帯キャリア各社のポイントによる囲い込み措置についても、経理上の処理について調査報告するよう事務局に要請した。
また、他の構成員からは、今後のモバイル市場を考慮すると、Wi-FiやWi-Maxについての議論ももっと必要との指摘がなされた。「欧州もオープン型モデルでやろうとしているが、日本ではどういうビジネスモデルでやろうとしているのか。もしWi-Fiまで垂直統合モデルで囲い込みがされてしまったら悲惨だ。とても変な国ができてしまう」(構成員)。
さらに他の構成員からは、「モバイルでも改めてユニバーサルサービスの定義を再構築すべき」という意見も出された。「もしかしたら、それは音声電話だけではないのかもしれない。ユニバーサルサービスとは何だろうという議論も必要だ」(構成員)。
この指摘に対して谷脇氏は、「FMCが進展していく中では、当然モバイル通信をユニバーサルサービスから除外して考えることはできない」とし、主要検討項目の中にユニバーサルサービス論も加えていくことを示唆した。
次のモバイルビジネス研究会は5月31日に開催予定。次回は、総務省から1次案が提出された主要検討項目について、研究会構成員の意見を踏まえた「2次案」が提示され、改めて議論される予定だ。
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