第三の突然変異YouTube--枠にはまらない新アイデア

加藤順彦(株式会社NIKKO 代表取締役社長)2007年04月09日 08時00分

 このコラムでは「広告業の新潮流」を考えているわけでありますが、改めて広告業とはなんでしょう。

 考えるに、広告会社の種別を大きく分けると、
(1)広告枠手配
(2)広告表現制作
の2つの軸があると思っています。

 日本の場合、基本的にほとんどすべての「広告代理店」は、広告枠の販売を主業としている会社です。ここで取引された広告枠に掲載される広告表現は、俗にいう「制作会社」によって広告が入る枠の内容とは無関係に制作されているケースが多く、広告主が双方を個別に使っている場合も多くあります。

 そういった意味では、取引された広告の場所とその場所にふさわしい表現を対にして考えて実施することこそ、最も基本的な広告会社の仕事であるべきかのような気もするのですが、現実問題、必ずしもそういうわけではありません。

 インターネットが現れて他業界同様、広告業界もまた仕組みが変りました。とりわけ大事なことはこの超・多メディアの時代が到来したことで、広告主が決める広告枠の選択肢がこれまでの数局・数誌のなかから選ぶという方法でなく、もはや枠を選ぶ必要すらなくなってきた! ことです。

 そのことを一番痛烈に感じたのが、Yahoo!、Googleに続く第三の突然変異YouTubeを目の当たりにしたときでした。このYouTube、いろんな意味でスゴイのですけど、一番革命だと思っていることは、1日数万ものビデオがアップロードされ、数億回も再生されているにも関らず、アップした人も再生している人も利用料金が掛からないことです。投稿費用(もちろん媒体費含む)は0円。1回しか再生されなくても、1億回再生されても、サービス利用料金は0円。

 そして、それらのビデオの中には数万の動画広告=VideoAds(プロモーショナルな制作企図の動画)が含まれています。

■Youtubeに掲載された昨今の代表的な広告(VideoAds)

 それまで、広告業界で議論されてきた動画広告というのは(例えば、Yahoo!動画やGyaOなど)、すべて表示=再生回数=料金の基準でした。何インプレッション、何人が見た、いわゆる露出量(Exposure)が価格体系のものさしだったのです。ところが、YouTubeには結論そういった考え方自体がない。つまり広告を表示しているスペースの料金がない、いや、広告枠という概念がないのです。ここにおいてはインターネットという隕石が当たって砕けて、広告枠は消失しています。

 再生された回数や量、視聴率ではなく、純粋に提示されているアイデアがいかに生活者とブランドの関係性やつながりを変えたのか、ということが評価の指標になっちゃっています。こうなると、もう「広告代理店」の生業(なりわい)は変わらざるをえません。

 これまでの広告産業は、呉越同舟だろうと同床異夢であろうと、「広告会社が儲かっているということはメディアが儲かっているということ」でした。ある意味で双方は一蓮托生であり、コインの表と裏だったのです。

 これからは広告会社が既存メディアを使わずに(Youtubeのような新しい仕組みを使い)アイデアだけでプロモーションを行うようなことが起こるでしょう。無論その逆もまた真なり、です。

 メディアと広告会社、広告主とメディア、広告会社と生活者、メディアと生活者、そして広告主と生活者。新しい潮流は、新しい関係を創出しています。

 次回以降は、足元の最新トピックから新たな潮流の兆しを探っていきたいと思っています。

加藤順彦
株式会社NIKKO 代表取締役社長

1967年4月7日生まれ、大阪府出身。関西学院大学商学部在学中の1986年に株式会社リョーマ設立に参加し、学生起業を興す。1991年同大学卒業後、株式会社徳間インテリジェンスネットワークに勤務。1992年に雑誌媒体専門の広告会社、日広(現NIKKO)を設立。1996年からインターネット広告の取り扱いを開始、ウェブサイトを軸としたインタラクティブマーケティングに強みを持つ総合広告会社へと発展。日本広告業協会 インタラクティブメディア研究小委員会委員、日経広告研究所 デジタル放送広告研究会委員。

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