東京都千代田区三番町、リノベーションされた古いビルの4階に、キールネットワークスはある。1998年に設立された同社は、政府や大学、企業の情報通信のシステム構築やコンサルティングなどをおこなう技術系ベンチャー企業だ。
同社の特徴は、日本における情報通信技術の先駆者として名高い創業者の櫻井智明(現同社代表取締役最高執行責任者=COO)氏の存在によるところが大きい。
櫻井氏は高校卒業後の1980年、大学へ進学せずに「戦闘機に男心をくすぐられて」航空自衛隊に入隊。そこで空曹候補生として最先端の軍事技術を学んでいたところ、「南極の昭和基地に通信アンテナを建設する」話が舞い込み、通信•電子機器開発の理経に転職した。
ところが、プロジェクト自体が消滅してしまう。だが、櫻井氏はめげずに通信分野のエヴァンジェリストとなるべく、映像暗号化装置の知識と専門技術、日本における使用権を取得するために渡米する。
「当時、アメリカでCATVをタダ見した視聴者が敗訴した裁判があったんです。いずれ日本もそうなるだろうと確信して、映像暗号装置の権利をアメリカの会社から獲得してきたんです」
そうこうするうちに、通信衛星打ち上げ前の日本通信衛星(現JSAT)からヘッドハンティングされる。同社では、アメリカの回線設計プログラムを日本仕様に変えたり、郵政省に納入するプログラムを立案したりしていた。
しかし、日本におけるインターネット元年ともいうべき1996年に「インターネットワールドエキスポ」のテクニカルディレクターに同社在籍のまま就任しようとするも、社内の人間から「『マルチメディア』ブームの二の舞ではないか」と成功を疑問視され、「自分がインターネットの可能性を証明する!」とタンカを切って退社。加えて、ストリーミング開発会社のプログレッシブネットワークス(現リアルネットワークス)の日本法人も設立。本社のある米シアトルと日本を行き来しながら、OCNの通信網設置プロジェクトの仕事もこなす日々を続けていた。
しかし、アルゼンチンで行われていた国際環境会議「COP4」に(別の仕事で)出席しているときに、ある(自分がいなくても大丈夫そうな)プロジェクトのためにリアル社から帰国を催促され「いやがらせに近いな」と思い退社。と同時にキールネットワークスを自らの手で設立するのである。
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