世界最大規模の従業員数を抱えるIBMは米国時間1月30日、人の遺伝子情報に基づいた差別を違法なものとする連邦法案への支持を明らかにした。
遺伝子検査における技術が進めば、医師が患者個人にあわせて薬の処方を調整することや、糖尿病や乳ガン、心臓病などの因子を持った患者に対してそれらの病気を予防的に治療することが可能になる。
しかし、遺伝子情報を基に差別が行われるのではと恐れる人々は、遺伝子検査技術を利用しないかもしれない。また、保険会社が治療費の高い病気の因子を持った人に対する補償内容を制限しようとする可能性や、雇用者が遺伝子情報によって雇用や昇進を決定するようになる可能性があるという意見もある。
こういった問題は30日、米国下院下院教育および労働委員会のもとにある健康、雇用、労働、年金に関する小委員会が「遺伝子差別からの労働者保護」をテーマに行った公聴会の場で議論された。
IBMの最高プライバシー責任者であるHarriet Pearson氏は公聴会において法案に賛成する旨の発言を行っており、同社も2005年10月に遺伝子差別に対する保護をその企業ポリシーに追加している。Pearson氏は、こうしたことを行うのは世界中で33万人以上の従業員を抱えるIBMが初めてだったと述べた。
Pearson氏はインタビューで、「全体として、われわれはこういったすべての技術の台頭と採用について理解している。Web 2.0やソーシャルネットワーキング、ヘルスケア業界のエコシステムを越えた情報共有を可能にする先進的なソリューションといった技術の進歩によって、プライバシーの問題が持ち上がってくる」と述べている。
2007年の遺伝子情報差別禁止法案(Genetic Information Nondiscrimination Act)は、雇用主や保険会社に対して、遺伝子情報に基づいた経営的な判断や補償内容の決定を下すことを禁じるものである。また、同法案によって、遺伝子情報には医療記録と同等の機密保護が求められることになる。
Pearson氏は「この問題を検討する必要性は、ヒトゲノム計画によって一気に高まった」と述べるとともに、「われわれは常に、ポリシーをいかに改訂すべきかを検討している。われわれのポリシーでは、人種や性に基づく差別が禁止されている。しかし、性的指向については最初からポリシーに含まれていたわけではなかった。それは後から付け加えられたのだ。そしてわれわれはその後、遺伝子に関することをポリシーに盛り込んだ。これは間近に迫った現在の問題なのだ。そして私がIBMを好き、いや愛している理由の1つに、自社を取り巻く状況に注意し、自らが理に適うと判断する態度をとることがある」と述べている。
上院において過去に2度、全会一致で可決された同法案は1月16日、Louise Slaughter氏(民主党、ニューヨーク州)、Judy Biggert氏(共和党、イリノイ州)、Anna Eshoo氏(民主党、カリフォルニア州)、Greg Walden氏(共和党、オレゴン州)によって下院に再提出された。同法案は、超党派議員181人の賛成を得て提出された。しかし、法案の詳細が下院で議論され、この法案に強く反対するロビー団体も存在している。
米国商工会議所は一貫して同法案に反対しており、過去の遺伝子差別禁止法案に対して、米国障害者法(Americans with Disabilities Act:ADA)によって既に十分な保護が提供されていると主張し、反対の陳述を行ってきた。同グループの姿勢は、過去の証言やそのウェブページに掲載されている声明によると、新法案によっていたずらに訴訟が増えることになりかねないというものだ。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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