11月に開催されたNew Industry Leaders Summit 2006 Fall(NILS)では、ネット・デジタルコンテンツ分野における投資戦略と投資事例について議論された。カーライル・グループのディレクターである吉崎浩一郎氏がモデレーターを務め、サイバーエージェント専務の西條晋一氏、GDH社長兼CEOの石川真一郎氏、Adobe Systems Incorporated Director of Emerging Market Investmentsの田中章雄氏が各社の事例を紹介。投資戦略と投資事例について意見を交換した。
浮かび上がってきた戦略面のキーワードは「中立性」であり、今後注目すべきキーワードとしては「インド」「中国」「Web 2.0」「メディア再編」――などがあがってきた。
「GONZO」のブランドでアニメ制作などを行うGDHは、2006年からアニメ制作やコンテンツを配信、ファイナンスの領域で投資機会を狙っている。国内外の有能プロデューサーやアニメラジオ事業を展開する企業など、これまでに人と企業の両面で約30億円の投資活動を実施。「どちらかというと新しいことと古いところの両面を持っているような案件に投資している」(石川氏)。
ネットメディア事業やネット広告代理店業、EC事業を軸に総合ネット関連事業を展開するサイバーエージェントは、理解できないものは面白いと思っても投資はしないというスタンスに立ってすでに、35〜40億円の投資を実行している。幅広くネット関連事業を手がけている強みを生かし、目利き力や投資後の支援が可能なことなどで、既存の投資会社と差別化している。
株式公開した投資先はドリコム、オウケイウェイブ、インタースペース、ミクシィ――など。現在はリアルコミュニケーションズ、ウェブシャーク、ジー・プラン、クロスワーク――などに投資している。
AdobeはNetscapeなどネット世界の黎明期のころから投資活動を積極的に行っている。これまでは本業と関係ないところにも投資をし、投資ビジネスとしては成功していたが、2005年からは事業シナジーを狙った戦略的な投資活動に切り替えた。約3500億円で買収したマクロメディアはその戦略投資の代表例で、今後も新しいメディアやコマースのプラットフォームに関連した投資事業に注力していく方針だ。
まず、投資戦略については本業とのシナジーを目指す投資とキャピタルゲインを目指す投資に整理。各社の戦略事例を見ながら、両者のポイントについて議論した。
GDHではGDH本体での投資事業とは切り分け、関連会社のGDHキャピタルでメディア再編をテーマにした投資事業を展開している。「2008年から2011年に地上デジタル放送で多くの投資機会が生まれる」(石川氏)と考えて展開した投資事業に対して、「外資系投資会社や国が本気でこの分野に取り組むために助言を求めてきた」(同)ことから、メディアコンテンツ業界の投資銀行的な役割を担うスタンスで事業展開しようと考えたためだ。
サイバーエージェントではキャピタルゲインの追求に重きを置き、シナジーには重きを置いていないという。「仮想敵国は作らない」というスタンスが同社グループのカラーだと認識しており、中立性こそが投資事業を成功させる重要点であるとの考えを示した。GDHの石川氏も「中立的な立場が取れるか否かが投資戦略を成功させるためのカギになる」とする一方で、「(大手ポータルサイトのように)仮想敵国を作るやり方もある」とした。
また、投資事業に影響する他の重要な視点として、「例えば、『Adobeは技術』のようなブランドがあることは投資事業を成功させるための入り口となるポイント」との認識も確認し合った。
今後の投資事業に対する各社の方向性については、「中国関係に注力する。収益モデルが見えなくてもWeb 2.0関連であれば投資もあり得る」(西條氏)、「Adobeはクリエーターとコンテンツの意味で”入口と出口”を押さえているので、Web 2.0の流れでこの真ん中のギャップを埋めたい。インドと中国についても注力していく」(田中氏)とした。
一方、石川氏はメディア再編に関する今後の投資事業について「今後は株式公開がメインのイグジットではなくなる。メインはM&Aで、2008年頃から大再編が始まり、本格的な大再編は2011〜2015年くらいに始まる」との考えを示した。
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