Web 2.0時代に企業が直面する「知識」の活用法 - (page 2)

 これだけならば、例えば、eBayを活用して物品の購入費用を節約できることとあまり変わらないし、必ずしも「集合知」を活用しているともいえない。しかし、Howeは他にもいくつかの例を挙げて「クラウドソーシング」のインパクトを説明する。特に興味深いのはR&D(研究開発)のクラウドソーシングの例として挙げられているInnoCentiveに関する事例である。既に日本でもサービスを開始したInnoCentiveのサイトによれば、ここでは「研究開発課題を抱える世界の一流企業と、その研究を専門とするトップクラスの科学者たち」のマッチングが行われる。

 企業はInnoCentiveと契約を結び、自社の研究開発課題の詳細な解説、締め切り、課題の解決策に授与される報奨金をサイトに掲示する。こうした課題に対し、同じくInnoCentiveと機密保持や知的財産権の譲渡契約を結んだ科学者たちがそのソリューションを提供する。科学者たちへの報奨金は1万ドルから10万ドルの間なので、大規模な研究開発をこのシステムでできるとは思えない。しかし、InnoCentiveを通じて「クラウドソース」しても十分というケースは数多いのではないだろうか。

 この点に関し、HoweはP&Gの例を挙げている。2000年当時、上昇の一途を辿る研究開発費と伸び悩む売上に悩んでいたP&Gは、社外でのイノベーションを積極的に受け入れる方針を固め、2006年は研究開発部門の生産性が60%も上昇したそうだ。P&GはInnoCentiveを初期から活用していたらしいが、これと同様のサービスを他にも活用しており、9000人の社内R&Dスタッフのほかに、なんと150万人の外部研究者とのネットワークを構築しているという。

 良く考えれば、この例も最初に挙げられたアマチュアカメラマンのケースと本質的には変わらない。ただ注目すべきはR&Dという、ある意味で企業の競争力の源泉ともいうべき仕事まで、一般大衆に委ねることが可能になったということである。また、Howeは5月から「Crowdsoucing: tracking the rise of amatuer」というブログを始めているが、この例での、“crowds”はアマチュアではなくプロの科学者たちを指すことになる。

 クラウドソースという概念からは、インターネットを介してつながっている人たちの潜在的な知識をうまく活用することによる、コスト削減や、効果的イノベーションのための新しい方法論が垣間見える。

Web 2.0が突きつけた本質的な問い

 知識を有効活用するための方法論は、これまで様々なものが提示されてきた。例えば、ユーザーの質問にユーザーが答える形式の「知識検索」は以前から存在していたし、企業内のシステムにも活用されている。

 しかし、エンタープライズ2.0やクラウドソーシングというコンセプトが改めて注目されているのは、Web 2.0という言葉に代表される、本来の姿を現し始めたインターネットの影響によるものだろう。だから、これら2つのコンセプトはいずれもインターネットが本来的にもつ知識創造のプラットフォームの観点から、より本質的な疑問を企業に投げかける。

 この質問とは、「そもそも企業にとって必要な知識がいったいどこにあるのか」ということである。「社内にしかない」、あるいは「社内にもある」と答えられる企業は、エンタープライズ2.0的な進化したナレッジマネジメントシステムの構築や活用によって、それを必要な時に必要な社員が活用できる。

 しかし、一方でこうした知識は必ずしも社内にあるとは限らない。というより、むしろ社内にないケースの方が圧倒的に多いのではないだろうか。新しいプロジェクトを開始する、あるいは新たな研究開発を行うときなどは、特にその可能性が高い。この場合ナレッジマネジメントシステムが機能すればするほど、必要な知識は社内にないことがわかってしまう。さらに、進化したインターネットは、必要な知識を有する人がどこにいて、その知識を有する人たちとコラボレーションすることが可能であることも明らかにしつつある。

 経営学の権威であるPeter F. Druckerは、以前から知識だけが企業の発展に寄与する資源になることを指摘しているが、豊富で多様な知識ベースを保有する大企業は、上に挙げた本質的な疑問と向き合わざるを得ないだろう。しかし、専門知識をもつ個人にとっては、チャンスの多い、“Power To The People”の時代が到来しつつある。

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