「ネット版わらしべ長者」--一軒家を手に入れるまでの軌跡

文:Daniel Terdiman(CNET News.com) 翻訳校正:尾本香里(編集部)2006年07月21日 08時00分
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 ここ1年間で、赤いペーパークリップ1個でできることの意味が大きく様変わりした。

 モントリオールに暮らす気さくな青年Kyle MacDonald氏は、自らのブログ「one red paperclip」への2005年7月12日付けの投稿をきっかけに世界から注目されることになった。何の変哲もない赤いペーパークリップ1個を手始めに物々交換を重ね、一軒家を手に入れようという試みだ。

 無謀な試みだと思うかもしれないが、MacDonald氏は1年を通して14回の物々交換を重ね、宣言通り目的を達成した。米国時間7月12日、カナダ・サスカチェワン州のキプリングに到着した彼は、この試みのクライマックスを迎えた。キプリングが、地味ながらも2階建ての一軒家と、MacDonald氏が直前の物々交換で手に入れたゴール一歩手前のアイテム、Corbin Bernsen氏の映画に出演する権利との交換を申し出たのである。

 同氏はこれまでに、ペン、ドアノブ、発電機、小型トラック、フェニックスにある住宅の賃貸契約(1年間)、有名ロック歌手Alice Cooper氏と午後を過ごせる権利などを手に入れては、次なるものと交換してきた。途中、ロックバンド「KISS」のスノーグローブ(容器の中に水を満たし、白粉が雪のように舞う置物)といった奇妙なアイテムを手に入れたりしながら、一軒家との交換に一歩ずつ近づいていったのである。

 キプリングはMacDonald氏を一日名誉市長に任命するなど、町をあげて同氏を歓迎している。いまや、MacDonald氏は有名人となった。同氏の名声は留まるところを知らず、世界中のメディアが同氏の試みに興味を持ち、世間から到底不可能だと思われていたことを、根気強さとブログの力を持って成し遂げたと報道している。

 MacDonald氏は初めてのブログ投稿からちょうど1周年で一軒家との交換を成立させ、目標に到達したというから驚きだ。誰からも成功を認められた今をどのように感じているか、CNET News.comはMacDonald氏に電話でインタビューした。

--目標達成おめでとうございます。どのような気持ちですか?

 正直なところ、思いもかけなかった事態に非常に喜んでいます。というのは、この数日でウェブサイトへ大勢の人々がアクセスしてくれて、さらにはお祝いの電話がひっきりになりしかかってくるからです。とても気分がいいですし、ほっとしています。数カ月前までは、試みがこんなにもうまく行くとは思ってもいませんでしたし、自分が大ばか者と思われているのではないかとさえ考えました。赤いペーパークリップ1個から始めて一軒家を手に入れると宣言したはいいけど、結局実行できなかった人と思われるのではないかと。家を手に入れることができて本当によかったです。

 この試みは旅のようなものでした。一軒家(という目標を掲げたこと)は単にマーケティングの道具に過ぎないという風になるべく考えてきました。

--今だから言いますが、スノーグローブを手に入れた際、私はあなたが間違った選択をしたと感じました。

 Corbin Bernsen氏の映画出演権と交換できたわけですから、結果的にスノーグローブが私の切り札になりました。誰にも言わなかったことですが、スノーグローブを手に入れた本当の理由は、皆のリアクションが見てみたかっただけです。

--この取り組みを始めたとき、赤いペーパークリップ1個から物々交換で一軒家にたどり着ける可能性はどれくらいだと考えていましたか?

 最初にこの考えを披露するときには勇気が要りました。周囲から「気が狂っている」と言われるのではないかと、どうしようか悩みました。ゆっくりとプールに入ろうとしている時に、周りから「飛び込め、飛び込め」と言われるような感覚に襲われたものです。結局、私は飛び込むように、一軒家を手に入れて見せると宣言しました。しかし、そのおかげで目標を周りに理解してもらえて、やりやすくなりました。

--もし世界中からこれほど注目されなかったなら、途中であきらめていましたか?

 物々交換の経緯を細かく見てみると、弱気になっていた時期が何回かあるように思います。

 やる気がなくなったわけではありませんが、疲れてしまったときは確かにありました。一生懸命に取り組んできましたが、うまく行かないときもありました。なので、もし目標を周囲に知られていなかったら、早々に諦めて、今ごろは何も残っていなかったでしょう。しかし、実際は目標を宣言してしまっていたので、ここで逃げ出したら愚か者扱いされると思いました。この点においては、周囲の目に助けられました。

--個々の交換の経過をみていて、登場した1つ1つのモノというよりも全体的なストーリーを素晴らしいと感じたんですが。

 この試みは旅のようなものでした。一軒家は単にマーケティングの道具に過ぎませんでした。物々交換を行ったのは14回。つまり14人の人々と共同でこの試みを達成したようなものです。みんながそれぞれに何かを提供してくれました。これは、ペーパークリップとか家とか、私個人とかに関するストーリーではありません。全部をひっくるめて1つのストーリーなのです。私は途中過程において、誰とどういう理由で作業するのかを選択しただけです。これは人々に関するドラマでもあります。物々交換だけがこのドラマの中心テーマになっているわけではありません。多くの人々と協力してさまざまな要素を結びつけ、なにか良いものを作り上げようとしました。Alice Cooperさんや赤いペーパークリップ、私自身、そして多くの支持者達が、ウェブサイトを使ってコラボレーションしたのです。その結果、このすばらしいビデオになりました。1個のペーパークリップから始めるには、ある意味器用でなければなりません。

--今ではすでに、目標を達成されたわけですが、もし始めに戻ることができたら、自分自身にどのようなアドバイスをされますか?

 もしもう一度同じことをやるとしたら、今回の経験とは少し異なる方法で挑むかもしれません。小さく初めて、大きく考え、楽しむように、とアドバイスします。小規模でうまく行くものは、規模が大きくなっても理論的にはうまく行くだろうと、私はよく考えるのです。私は赤いペーパークリップ1個を1本のペンを交換しました。それならば家1軒をアパート1棟と交換することも可能かもしれません。実は人はこうした交換を頻繁に行っているのです。例えば、Craigslistにまつわる素敵な話は、きっとたくさんあることでしょう。きっと、私の試みよりも素敵な話があるのでしょうが、あまり多くの人に語られてこなかっただけです。

--あなたと交換に応じた人たち数人と話をしましたが、彼らは全員、相手があなただから交換に応じたと言っていました。こういった人々を引きつけるあなたの魅力は何だと思いますか?

 難しい質問ですね。おそらく、子供のやるゲームのような感覚で相手に接近していって、物事がシンプルになるよう心がけたからではないでしょうか。わたしは「funtential」という言葉をつくりました。funtentialとは「fun」(楽しみ)と「potential」(可能性)をくっつけた単語です。交換するときはいつも、funtentialを基本に考えてきました。最もfuntentialだと思うものと交換してきました。例えば、Alice Cooperさんと午後を一緒に過ごせる権利は、大金の入った封筒と交換するよりもずっとfuntentialなことなんです。

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