拡大路線を続けてきたインターネット専業の証券会社がこれまでになかった大きな岐路に立たされている。1月のライブドアショックに端を発した新興市場を中心とした株式相場全般の大幅下落に伴い、多くのデイトレーダーと呼ばれる個人投資家達の運用資産が大幅に減少し大きな痛手を負ったことが、ネット専業証券の業績拡大にも大きな圧迫要因となっているわけだ。
インターネット証券専業大手5社(SBIイー・トレード証券、松井証券、楽天証券、マネックス証券、カブドットコム証券)の6月の口座純増数は約7万口座に止まり、2005年6月以来、1年ぶりの低水準となった。これまでの月間口座純増数でピークだった2006年1月の27万口座に比べると大幅な落ち込みとなっている。
今後のネット専業証券の動向について市場関係者は「これまで、ネット専業証券は株式委託手数料の価格引下げ競争によって口座数の拡大を図ってきた。つまり、利益水準を低下させても口座数の獲得を優先させる“自転車操業”的な戦略を続けてきた。ところが、全体相場の急速な下落と、野村ホールディングス系のネット証券・ジョインベスト証券の新規参入や、これまで対面営業とインターネット取引部門を併設してきた準大手や中堅証券がここにきて相次いでネット取引の株式売買手数料の引き下げを打ち出してきたことなどから、ネット専業の口座数の伸びが鈍化してきたようだ」としている。
野村系のジョインベスト証券は5月の大型連休明けから営業をスタートさせ、6月末の口座数はすでに4万を超えている。準大手や中堅証券も野村の参入でようやくネット部門に本腰を入れて取り組まざるを得なくなったのではないのか。目先注目されるのは、ネット専業証券各社の2007年3月期の第1四半期(2006年4〜6月)の決算発表と、同時に明らかにされる2007年3月期通期の業績修正見通しだ。
UBS証券は7月6日付のリポートでネット専業証券にいついて、(1)口座純増鈍化から来る期待成長率低下による高すぎたバリュエーションの調整、(2)売買代金の低迷による業績悪化懸念、(3)新規参入による競争激化懸念――の3点から各社の目標株価を従来予想からそれぞれ引き下げた。それぞれの目標株価は、松井証券1280円(従来予想1900円)、マネックス・ビーンズ・ホールディングス12万2000円(同15万5000円)、イー・トレード証券16万5000円(同23万5000円)、カブドットコム証券21万9000円(同31万円)とした。
こうした中で、ネット専業証券が起死回生策として期待をかけているのがPTS(証券会社が運営する電子システムを利用した有価証券の売買市場=私設取引所システム)を活用した夜間取引市場の開設だ。カブドットコム証券は7月12日、金融庁から「競売買(オークション)の方法による証券会社の私設取引システム運営業務の認可」を取得したと発表した。
認可は国内で初めて。売買の開始は8月以降で、取引時間は午後7時30分から午後11時までとなる見通し。対象銘柄は現時点では未定だが、同証券の取り扱い上位銘柄が対象となる見通し。東証上場銘柄以外でも上位銘柄なら対象になるとしており、注文や約定、決済は通常の取引所取引と同じように行うこととし、株価は既存の株価情報端末などにリアルタイム配信する方針だ。
カブドットコム証券の斉藤正勝社長は、「夜間取引では注文件数が日中の20〜30%程度になるかもしれないが、新規顧客数の増加が見込まれる。トータルしては業績に貢献する可能性が高い」と意欲をみせている。
同じ7月12日にSBIイー・トレード証券、SBI証券、楽天証券の3社は、株式の夜間取引開始に向けた共同準備を行うことで合意したと発表した。システムを共同で構築し、各社が夜間取引市場を開設する方向で準備を進める。オリックス証券も参加する予定だ。今回の私設取引所開設は2005年の改正証券取引法でオークション方式が認められたことによる。夜間取引としてはゴールドマン・サックスが運営を行っていた「ムーントレード」があったが、システムの運営費用に比べて利用者数が少なく2002年に運用を停止した経緯がある。
市場関係者は「今後は、東証、大証など既存取引所の夜間取引への対応が焦点となるが、従来の前場、後場に加えて昼間は本格的な売買が不可能なサラリーマントレーダーが思う存分取引ができる“夜場”が登場し、将来的には“土曜場”や“日曜場”など“休日取引”に拡大する可能性もあり、ネット専業証券の収益拡大するチャンスとはいえそうだ。ただ、最終的に生き残るは2〜3社となる可能性が高く、再編淘汰は一段と加速しそうだ」としている。
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