「企業におけるWeb 2.0は、ボトムアップの情報共有が基本となる」--これは、Socialtext 最高経営責任者 Ross Mayfield氏と、リアルコム 代表取締役CEO 谷本肇氏の共通した考えだ。5月に開催されたNew Industry Leaders Summit(NILS)にて、企業向けソリューションを提供する両者が、「Web 2.0 for Enterprise」というセッションに登壇し、Socialtextおよびリアルコムの考える企業内の情報共有について語った。モデレーターはMitsui & Co. Venture Partners インベストメントパートナーの竹内寛氏が務めた。
Socialtextは、Wikiを企業内情報共有ソリューションとして提供する企業だ。Mayfield氏はWikiについて、「この世にあるすべてのものがそうであるように、Wikiは常に未完全で未完成なものだ」と話す。エンタープライズソフトウェアは通常トップダウンで構造化されたものだが、Wikiは非構造化データで成り立っており、更新のワークフローも決まっていない。とりあえず誰かが書き始め、時間がたてばテキストも変わっていくという形態だ。Mayfield氏は、「Web 2.0がユーザー中心で作られていくのと同じで、Wikiもボトムアップでコンテンツが作られる。人が自由に情報共有してデータを作り上げ、ナレッジマネジメントシステムができあがるという仕組みだ」という。
SocialtextがWikiを企業に販売する際も、トップにはアプローチしない。利用者は現場の社員が中心だからだ。「(ユーザーが作り上げていくオンライン百科事典の)Wikipediaが社内にあるようなもの。拡張性があるという点もWikipediaに似ている」(Mayfield氏)
Mayfield氏は、情報共有の方法として現在メールがよく使われていることについて、「メールの30%は職業スパムと言ってよい。つまり、メールを受け取った当人にとってはそれほど重要な内容でなくとも、関係者ということでCCされている」と指摘する。このように、さほど重要度が高くない情報をメールではなくWikiに掲載することで、職業的スパム問題を解決できるとしている。
Wikiは、導入後の利用率も非常に高いとMayfield氏。同氏は、「情報を蓄積できる場所がWikiだ。ある導入先の企業では、半年で従来のイントラネットへのトラフィック以上にWikiへのトラフィックが伸びたという事例もある」と話す。
一方、リアルコムは、ナレッジマネジメントのパッケージソフトとコンサルティングサービスを提供する企業だ。谷本氏は「2000年の設立当初から、企業という組織のあり方やワークスタイルを変えたいというビジョンの下で製品やサービスを提供してきた」と話す。これまでピラミッド型になっていた組織を、逆ピラミッド型の自律的な組織にしたいという考えだ。
もともとリアルコムは、インターネットに知恵のデータベースを作るため、コンシューマー向けのQ&Aサイト「Kスクエア」を運営していた。その後同社は、Kスクエアと同様のシステムを企業向けナレッジマネジメントソリューションとして展開することになる。
「企業の情報共有は、一方通行ではなくインタラクティブであるべきだ。また、階層的な組織構造に基づいて情報共有するのではなく、組織横断型でやるべきだ。もちろん、トップダウンのアプローチではなくボトムアップである。これがリアルコムの考える情報共有のあり方だ」(谷本氏)
情報が氾濫することで、インターネットでは検索サービスが情報整理のための重要な位置づけを占めているが、企業内での情報は「人が整理する」と谷本氏。同社の提供するソリューションでは、ある人が提供した情報に別の人が評価をつけたりフィードバックしたりすることができ、利用度の高い情報をうまく表示させることが可能なためだ。
「情報共有で大切なのは、データが中心というより人が中心だということ。これがWeb 2.0 for Enterprise、つまりEnterprise 2.0のコンセプトそのものではないか」と谷本氏はいう。Web 2.0やEnterprise 2.0というのは、ツールやテクノロジのことを指すのではなく、「仕事のやり方やライフスタイルが変わること」というのが谷本氏の考えだ。
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