「GPLの守護神」E・モグレンが守り続けるもの

文:Stephen Shankland(CNET News.com)
編集校正:坂和敏(編集部)
2006年01月30日 16時02分

 Eben Moglenは最近、多忙な日々を送っている。

 コロンビア大学ロースクールの教授で、Free Software Foundation(FSF)の法律顧問を務めるMoglenは、「General Public License (GPL)」の改訂内容を説明し、その作業を監督するという新しい役割を担っている。15年ぶりの改訂となるGPLは、フリーソフトウェア・ムーブメントの原則を体現したものであるだけでなく、LinuxやMySQLといった何千ものオープンソース・ソフトウェアが依って立つ法的基盤でもある。

 Moglenの依頼人はFSFの創設者で、リーダーでもあるRichard Stallmanだ。StallmanはGPLを通して、自身の哲学的、技術的目標を広く世の中に伝えようとしている。GPLに基づいて公開されるソフトウェアのソースコードは、自由に閲覧、修正、再配布できなければならない。また、配布されたソフトウェアに変更が加えられた場合は、その変更もGPLに基づいて公開されなくてはならない。

 GPLバージョン3の草案では、GPLの基本的な仕組みに変化はない。しかし、特許法に対する姿勢はより強硬なものとなっている。1991年に発表されたバージョン2と異なり、バージョン3はソフトウェア特許の問題に明示的に取り組んでいる。また、デジタル著作権管理(digital rights management:以下、DRM)技術に対しても、反対の立場を打ち出している。ソフトウェアやコンテンツを暗号化したり、制限をかけたりすることで、その利用を管理しようとするこの技術を、FSFは「デジタル制限管理(digital restrictions management)」と呼んでいる。

 Moglenはケンブリッジのマサチューセッツ工科大学(MIT)で開催された「GPL 3」カンファレンスで、CNET News.comのインタビューに応じ、バージョン3での変更点、Linuxに関する懸念、TiVoや映画業界との対立などについて語った。

--まず、今回の改訂の規模を教えていただけますか。これはGPLの大転換と呼ぶべきものなのでしょうか、それとも軌道修正でしょうか。

 軌道修正というより、進化といったほうが当たっています。GPLの方向性に大きな変化はありません。これは過去15年間の変化に追いつくための進化です。バージョン2が登場してから、ずいぶん時間がたってしまいました。この15年間で、技術もフリーソフトウェアの使われ方も、フリーソフトウェアを取り巻く社会環境や法的環境も変わりました。

 技術はよい方向に変化しました。フリーソフトウェアを取り巻く社会環境も、驚くほどよい方向に変化しました。しかし、法的環境は悪い方向に変化しました。バージョン3に進化することによって、GPLはこの3つの面で、現状に追いつくことができると考えています。

--法的環境は悪い方向に変化したということですが、その一因は特許法にあるのでしょうか。

 まさに、その通りです。1991年に発表されたGPLバージョン2は、特許の問題に目を向けなければ、フリーソフトウェアに限らず、あらゆるソフトウェアが損害を被ることになると警告しました。15年後の今、特許法に問題があると考えていない業界関係者はいません。ここには市場をほぼ独占しているような、最大手の企業も含まれます。特許法の恩恵を受けている企業ですら、この問題の本質に気づくようになっているのです。

 たとえば、特許取得件数で先頭を走るIBMは最近、ワシントンで特許制度改革運動の最前線に立っています。自らが最大の受益者であるものを改革しようというのですから、奇妙な話です。この状況を見ても、何か根本的なものがおかしくなっていることは明らかです。

 過去の多くの例と同様に、この件でもStallman氏は先見の明を持っていました。GPLは早期に特許問題に取り組もうとしました。しかし、1990年代末には特許問題に対する取り組みが十分でないという理由で、GPLは同じフリーソフトウェアの世界の人々から批判を浴びることになりました。早期に警鐘を鳴らしたにも関わらず、批判を受けるというのは、この問題の深刻さを示す証左だと思います。

 法律分野では、他にも悪い方向への変化がありました。法学教授たちが「補助的著作権(paracopyright)」と呼ぶものへの動きがそれです。「デジタルミレニアム著作権法(DMCA)」が成立し、「欧州著作権指令(European Copyright Directive)」が採択され、特定の企業を保護することを目的とした技術規制の導入により、著作権法の基本原則が強化されました。

 これは規制を利用した、一種の法的扶助です。エンターテインメント分野の一握りの大企業の利益を守るために、何兆ドルものビジネスが犠牲になっています。これは世界中のソフトウェアメーカーとハードウェアメーカーに深刻な問題を突きつけており、特にフリーソフトウェア・ムーブメントに与える影響は甚大です。

--具体的に、ソフトウェア特許の何が問題なのですか。

 著作権と異なり、特許は表現ではなく、アイディアを管理するものだと考えられています。フリーソフトウェア・ムーブメントの精神は、人々の優れたアイディアを再実装するところにあります。そのアイディアをどうやって知ったか、どうやって入手したかは問われません。著作権の点では、それで問題ありません。再実装することもできるし、好きなように説明し直したり、新しい方法で表現したりすることもできます。新聞やウェブサイトに載せる記事を書くときに問題となるのは、そのニュースが誰のものかではなく、独自の記事を書いたかどうかです。

 ニュースの所有が認められる世界を想像してみてください。誰かがニュースを伝えたら、それはその人物の所有物となり、あと20年間は他の誰も報道することができない--これこそ、特許法がソフトウェアに突きつけている問題なのです。

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