劇場、DVD、テレビで同時公開--ある新作映画の狙いと計算

文:John Borland(CNET News.com)
翻訳校正:坂和敏(編集部)
2006年01月16日 14時25分
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 米国時間12日の夜、ウエストバージニア州パーカーズバーグにある歴史的な劇場Smoot Theaterで、ある作品の公式プレミアショーが開かれた。この映画の後援者らによると、これは「今後の映画業界の方向性を示す」ものだという。

 この「Bubble」という映画を監督したのは、「Sex, Lies, and Videotape(邦題:「セックスと嘘とビデオテープ」)」や「Erin Brockorivh(邦題:「エリン・ブロコビッチ」)」などの作品を手がけ、2001年には「Traffic(邦題:「トラフィック」)」でアカデミー監督賞を受賞したこともあるSteven Soderberghだが、しかしこの作品の公開をめぐる騒ぎは、映画自体の芸術性にはあまり関係がない。劇場公開が始まる1月27日の夜に、HD(高品位)テレビ放送の「HD Net」で放映され、またそのわずか4日後にはDVDが発売されるという点が話題を呼んでいるのだ。

 映画ビジネスに携わる多くの人間にとって、これは異端ともいえるやり方だ。大手劇場チェーンのほとんどは同作品の上映を拒否した。この作品製作に資金を提供したのは、Broadcast.comを創業したMark CubanとTodd Wagner、それに彼らの経営するWagner/Cuban Companiesだ。そして、この作品はハリウッドの従来のビジネスのやり方に真っ向から挑戦を仕掛けるものである。

「Markと話していて、『投資家にとって魅力のない業界において生き残る方法を探し出すことはできるだろうか』という話題になった」とWagnerは述べる。「巨大な映画会社が支配する業界で、真の企業家が成功するチャンスはこれしかない」(Wagner)

 映画の公開に関して、従来とは異なる戦略が実験的に試行され始めているが、「Bubble」はこうした動きのひとつである。こうした新しい配給方法はハリウッドのビジネス慣習を揺るがし、すでに興行成績の不振に苦しむ劇場オーナーを守勢に立たせることになった。

 映画業界では長い間、最初は劇場、次にホームビデオ、その次にTV、ペイパービュー、VOD、ホテル、飛行機、その他・・・という具合に、段階的に作品を公開するやり方がとられてきていた。各市場における公開時期をずらすことにより、映画会社は各市場から最大限の利益を獲得したいと考えていた。

 しかし近年になって、新しい供給技術が登場したり、オンラインでの不正コピー流通や偽造DVDの販売が増加したことなどから、この配給モデルには揺らぎが見え始めている。今では、プレミア上映前に、インターネットから新作を入手することもごく当たり前にできるようになっている。また、新作のビデオが劇場公開直後に、街角でわずか数ドルで販売されている場合もある。

 DisneyのCEO、Robert Igerをはじめとするハリウッドの有力者らは、過去数カ月の間、こうした新たな課題に対応するため、従来のやり方を抜本的な見直す必要があるとの発言を行っていた。

 また、Twentieth Century Foxは先ごろ、DVDのリリースと同時にビデオオンデマンドサービスでの映画配信も始める計画を明らかにした。これはMovieLinkなどのオンラインビデオ配信サービス企業が長年求めてきた方法だが、同社ではオンラインの映画配信が遅すぎて通常のビデオレンタルと競争できないと不満を述べていた。

 しかし、映画の一般公開と同時にDVDを発売するという今回の「Bubble」の試みは例外的なものであり、大手の劇場チェーンはこれを例外とし続けようとしている。最大手のAMC Entertainment、Cinemark Entertainment、National Amusementsなどは、自分たちの利益を損なう可能性のあるビジネスモデルを採用する映画の上映には全く興味が無いと発言している。

 「一般公開と同時にDVDを発売すれば、映画館での封切りの価値が薄まる」とCinemarkの広報担当者Terrell Falkはいう。「我々はそんな作品を上映する気は無い」(Falk)

 2001年に「Traffic」という作品でアカデミー賞の最優秀監督賞を受賞したSoderberghにWagnerが初めて会ったのは、WagnerとCubanがBroadcast.comをYahooに売却して間もない頃のことだった。WagnerとCubanはBroadcast.comの売却で50億ドル以上を手にしていた。一気に大金持ちとなった二人は映画製作に興味を持っており、そしてWagnerはできるだけ多くの映画業界人と話をして、同業界のビジネスについて学ぼうとした。

 ロサンゼルスのレストランでの最初の出会いの後、両氏はSoderberghの作る映画2作品への資金を提供した。そして1年半後、Wagnerは再度Soderberghに連絡をとり、ニューヨークでランチを食べながらDVDの「同時発売」というアイデアについて説明した。Soderberghはこれに大きな関心を示し、Wagner/Cuban Companiesのために6本の映画を監督することに同意したが、「Bubble」はその第1作目にあたる。

 Soderberghにとって、この新しいやり方は、新技術を使った幅広い実験の一環となっており、同氏はこの実験を通じてリスクを嫌うハリウッドのやり方に揺さぶりをかけたいと考えている。

 「Bubble」の作品自体も、映画製作の実験といえる。人形工場でおこった三角関係と殺人事件を物語るこの映画は、HDカメラで撮影され、またパーカーズバーグや近隣の街に済む素人の役者が出演している。Soderberghはこの製作に約160万ドルをかけたが、これは芸術映画としてもかなり少ない金額だ。

 WagnerとCubanにとって、劇場公開と同時にDVD発売するとは、イデオロギーよりもむしろビジネス上の決断といえる。映画ビジネスの分析を行った2人は、できるだけ多くの流通チャネルをコントロールする必要があるとの結論に達し、そして実際に劇場チェーンのLandmark Theatresを購入したほか、自分たちの手でDVDをリリースしたり、Cubanの運営するHDNetチャネルでの放映を行おうとしている。

 これら3つのチャネルをつかって同時に映画を公開すれば、マーケティングにかかる費用が節約できるが、これは予算の少ない作品にとっては重要なことだとWagnerはいう。また、彼らは今年さらに7〜8本の映画を同様のやり方で公開する予定だが、ただし同時発売するDVDには通常のホームビデオよりも高い価格を設定すると付け加えた。

この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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