いまさら説明するまでもないが、iPodの成功を背景に携帯型のミュージックプレーヤーのメインストリームは、コンパクトカセットやMDを退けメモリー/ハードディスク・タイプに移った。そしてソニーも、遅ればせながらこのAシリーズで本腰を入れ、巻き返しに出たといったかっこうだ。ソニーの製品はこれまで、過剰ともいえる音楽データへの著作権保護機能や、事実上の標準フォーマットであるMP3への非対応などでユーザーに不便を強いてきたが、昨年の秋以降、順次制限をはずし、このシリーズに向けて環境を整えてきた。
この1年ほどの変化を並べると、MP3への対応、プレイリストの本格サポート、CDから取り込んだデータの携帯プレーヤーへの転送回数制限の撤廃(以前は3回まで、現在は無制限)、ATRAC3 Plusの対応ビットレート幅の拡大(以前は256kbpsまで、現在は320kbpsまで)、CDからの音楽取り込み時の著作権保護の有無をユーザーが設定できるようにした、など。さらに、今後はWMAのサポートもアナウンスされている。Aシリーズとは直接関係はないが、ほかにもLosslessコーデックの提供、Hi-MDの生録データのWAVファイル変換サポートなどが行われており、まさに劇的な変化を遂げたといってもいい。
そして、満を持して登場したのが、このAシリーズというわけだ。転送ソフトはこれまでのSonicStageから新規で開発されたCONNECT Playerに変更され、本体の機能もこれまでのモデルとはまったくコンセプトを変えてアーティストリンク、インテリジェントシャッフルといった新機能が搭載された(アーティストリンク機能は、ハードディスクモデルのみ搭載)。ATRACのギャップレス再生機能が健在であることは強調しておきたいが、それ以外の点では、以前の製品とはまったく別モノといってもいいと思う。もうひとつ、USBもHi-Speed(USB 2.0の高速転送)が初めてサポートされた。
そして、このNW-A1000は、メモリータイプのNW-60x(512MB〜2GB)、大容量ハードディスクタイプのNW-A3000(20GB)の間に位置する中堅モデル。ほかにも、SonyStyle限定モデルのNW-A1200(8GB)があるが、サイズやコストパフォーマンスを考えて、いちばん買いやすいモデルはこのNW-A1000(以下A1000)だろう。
本体機能でいちばん変わったのは、以前は、アルバムの中に曲があるというネスト構造で処理されていたものが、曲単位で処理されるようになったという点。これは重要で、再生順の決定などに大きく影響する。もちろん、アルバム名、ジャンル名などの情報は保持しているのだが、それらは、曲の持つメタ情報という扱いである。
もう少し説明しよう。アルバム1にA1、B1、C1という曲が、同様にアルバム2にA2、B2、C2という曲が収録されていたとする。これをウォークマンで再生しようとすると、以前は「A1→B1→C1→A2→B2→C2」とアルバム単位で再生されていたのだが、A1000では「A1→A2→B1→B2→C1→C2」となる。つまり、ノーマル再生ではジャンルやアルバム、アーティストに関係なく曲名でソートされ、その順で再生されるのだ。6GBのハードディスクには数百〜数千の曲を収納できるが、これを曲名でソートして再生するというのは実質的にはシャッフルと変わらないと思うのだが、ともかく、そういう仕様に変更になった。
The抜きソートや漢字の自動読み仮名変換機能があるため、ソート時の並び順が自然でわかりやすいのはいい。また、イニシャルサーチ機能などにより、目的の曲、アーティスト、アルバムをすばやく見つけ出し再生できるのもすばらしい。しかし、次にどの曲が再生されるのかは把握が難しい仕様だ。
たとえば、アーティストサーチで「The Beatles」―「All The Beatles」を選択すると、ビートルズの曲が曲名順で再生される。しかし、ジャンルサーチで「ポップ(一般)」―「All ポップ(一般)」を選択すると、ビートルズを含むポップ(一般)ジャンルに属するアーティストの曲がアルバム単位―トラックナンバー順に再生される。アルバムサーチで1つのアルバムを選択して再生した場合は、そのアルバムの曲がトラック順に再生されるが、そのアルバムが終わるとそのまま再生が停止してしまう。
ブックマークや、曲の5つ星評価、削除予定リストなどが本体から編集可能だし、プレイリストも簡単に作れるので、それらを活用すれば自分の意図通りの順番での再生は可能だが、基本的にはシャッフル再生がAシリーズのコンセプトと考えていいだろう。
ウリのひとつであるアーティストリンクは、おもしろい機能ではあるが、実用性は高くはない。BGM的に音楽をかけているときに、ちょっと目先を変える、というような効果はあるので、基本がシャッフルという利用形態にはなじむが、実際使用してみるとリンクされたアーティストには首をかしげることもあり、単純なシャッフルと大差ない印象。アルゴリズムが公開されていないのでわからないのだが、「女性ボーカル」、「インストもの」といった感じでリンクしてくれるとうれしいのだが、そうはならないようだ。
インテリジェントシャッフルには、「よく聞くシャッフル」、「タイムマシンシャッフル」、「全曲シャッフル」があるが、「よく聞く〜」は再生回数を、「タイムマシン〜」はリリース年のメタ情報をキーに絞り込みを行う。こちらは実用性は高いが、「タイムマシン〜」では、どの年を選ぶかは本体まかせでユーザーは指定ができない。
ボタンは、十字キーと再生ボタン、BACK、OPTIONが前面に、左側面・上にアーティストリンク、右側面・上にボリューム、上面にHOLDが配置されている。BACKボタンやオプションボタンでメニューの中に入ったときに、意図しない画面に飛ばされることがあり、インターフェースはまだ練れていない印象。たとえばジャンルサーチで「Jポップ」―「All Jポップ」選択し再生中だとする。その後、違うジャンルを聞きたいと思い、オプションボタンを押してもう一度ジャンルサーチを選ぶ。このとき期待するのは、ジャンルサーチのトップ画面だが、実際には「All Jポップ」を選択した状態のメニュー画面が表示され、トップ画面に行くにはさらにBACKボタンを押さなければならないのだ。OPTIONボタンではなくBACKボタンを押すとどうなるかというと、やはり同じ画面が表示されてしまう。
メニューの選択決定が再生ボタンに割り付けてあるためメニュー表示中に再生の開始・停止ができない、電源OFFのときはHOLDボタンを押してもHOLDにはならないなど、不便と思う場面はあるが、BACKボタンの長押しでホームメニュー、OPTIONボタンでコンテクストメニューが表示されるのはいい。
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