エストニアの首都タリンにあるオープンカフェで、Veljo Haamerは、この小国が無線インターネットアクセスの分野で最先端を走っている理由について語ってくれた。
エストニアでは、素晴らしいWi-Fi(無線LAN)ネットワークが国中に張り巡らされており、僻地でさえその例外ではない。その素晴らしさは米国の大都市が恥じ入るほどだが、この功績の少なからぬ部分はHaamerのような草の根で活動するギークの手になるものだ。この3年間、Haamerと数人の仲間たちは、WiFi.eeという組織に籍を置きながら、ボランティアのエバンジェリストとして、エストニアのカフェ、ホテル、病院、公園、公共機関、さらにはガソリンスタンドにまで無線LANの導入を説いて回り、ネットワークの設計と構築に手を貸すなどして、大きな成果をあげてきた。
私は最近、3週間ほどかけて、エストニア国内を回ってきたが、小さな町のカフェや市の公園、さらにはバーやレストランもない遠隔の町にある国立公園でさえ、ラップトップを開き、ボタン1つでネットに接続することができた。しかし、Haamerはさらに上を目指している。
「エンドユーザにとって、インターネットは電気と同じくらい当たり前になってきていると言ってもよい。われわれは無線LANの普及に真剣に取り組んでいる」。うす茶色の髪をしたHaamerはスモークティーをすすりながら言った。
エストニアにとって、インターネットは総じて極めて重大な事項である。この国の政治家たちは、過去10年間、ネットワーク技術インフラの近代化に膨大な人と金をつぎ込んできており、その取り組みは世界中の業界団体から高い評価を受けている。
米国と比べれば、エストニアははるかに貧しい国だ。CIA発行の『World Fact Book』によれば、国民1人あたりのGDPは年間1万4300ドルで、マルチニック(カリブ海にある仏領海外県)のすぐ後につけている程度だが、それでもこの国は、1991年にソビエト連邦からの独立を勝ち取って以来、大きく発展を遂げてきた。
いまやこの国では、ごく少数の小規模な学校を除き、すべての学校がインターネットに接続している。政府もネットワークを広く活用しており、閣議をWeb上のペーパーレスシステムで開いたり、法案の草案をオンラインで公開して国民のコメントを求めたりしている。最近の調査によると、エストニア国民の7割以上はオンラインバンキングを利用しており、しかもその多くは、パソコンではなく携帯電話からネットに接続しているという。
このように、エストニアが国レベルで成功を収めているのは事実だが、しかしこの国の将来にとって最も期待が持てる点は、Haamerのような人間が草の根的な取り組みを進めていることなのかもしれない。Haamerのようなやり方は、米国の各自治体にも参考になるのではないだろうか。サンフランシスコは、Googleの大盤振る舞いを活かして市民に無線アクセスを提供するようだが、そうしたテクノロジー先進地域にとっても彼のやり方は注目に値するだろう。
テクノロジー経済を活気づけるには、お上の旗振りだけでは駄目で、最終的には民間の知恵と活力が必要になる。そして、そこで求められるのがHaamerのような人間だ。彼らは、シリコンバレーや米国のあらゆる場所で技術革新の大半を推し進めた情熱的なギーク集団と同じ能力を発揮している。
WiFi.eeから給料をもらっているのはHaamerだけだ。ほかの有志--すなわち、カフェのオーナーや地方政府もしくはEUの職員などは、すべて無給で、エストニア中にネットワークを張り巡らす仕事に協力している。Haamerは、自分と同じようにテクノロジーの信仰者で、各地域の地理に明るい人間を現場で見つけて、彼らがネットワークを構築するのに力を貸す、という方法でここまでやってきた。
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