DoubleClick 対 Overture/AdSense
Googleと同じように、DoubleClickもインターネット時代の申し子である。 DoubleClickはサービスとしてソフトウェアの力を利用し、データ管理を中核 能力(コアコンピタンス)とする。そして前述の通り、同社は「ウェブサービ ス」という呼称が登場するはるか前から、ウェブサービスを提供してきた先駆 的企業でもあった。しかし、同社のビジネスはそのビジネスモデルによって制 限を受けていた。DoubleClickのビジネスは90年代の概念(「ウェブとはパブ リッシングであり、参加ではない」「ウェブを支配しているのは消費者ではな く、広告主である」「規模が重要である/インターネットはMediaMetrixなど のウェブ広告調査会社が決定する上位のウェブサイトによって独占されつつあ る」等)に立脚していたからだ。
DoubleClickは自社のウェブサイトで、同社のソフトウェアが「2000社以上 に成功裏に導入」されたと誇らしげに宣言している。それに対して、Yahoo! Search Marketing(旧Overture)とGoogleのAdSenseはそれぞれ数十万の広告 主に広告サービスをすでに提供している。
OvertureとGoogleが成功したのは、Chris Andersonが「ロングテール」と呼 んだもの--すなわち、ウェブの過半数を占めている小さなサイトが、総体とし て大きな力を生み出すことを両社が理解していたからにほかならない。 DoubleClickのサービスは正式の販売契約を通して提供されるため、市場は数 千の大規模なウェブサイトに限定される。これに対して、OvertureとGoogleは、 ほぼすべてのウェブページに広告を掲示する方法を見つけ出した。しかも、両 社はバナー広告やポップアップといったパブリッシャーや広告代理店が好む広 告形態ではなく、控えめで、文脈に沿った、消費者の立場に立ったテキスト広 告を選んだ。
Web 2.0の教訓:ユーザーセルフサービスとアルゴリズムによるデータ管理を 導入し、ウェブ全体――中心部だけでなく周辺部、頭だけでなく長い尾(ロン グテール)の先にもサービスを提供する。
当然、こうした態度はその他のWeb 2.0 の成功事例にも見て取ることができ る。eBayは仲介プロセスを自動化することで、個人がわずか数ドルの取引を不 定期に行うことを可能にした。Napster(法的理由から活動を停止してしまっ たが)は楽曲の集中データベースを構築する代わりに、ダウンロードを行うす べての人のPCがサーバとなり、その結果として、ネットワークが拡大するよう なシステムを構築し、ネットワークを広げていった。
Akamai 対 BitTorrent
DoubleClickと同様に、Akamaiのビジネスも尾ではなく頭に、周辺部ではな く中心部に照準を当てている。Akamaiは中心部の人気サイトへのアクセスを円 滑にすることで、ウェブの周辺部にいる個人に利益をもたらしているが、収益 は中心部のサイトから得ている。
一方、BitTorrentはP2Pの他の先駆者たちと同様に、進歩的なアプローチで インターネットの分散化に取り組んでいる。すべてのクライアントはサーバの 役割を果たし、ファイルは細かく分断され、複数の場所から供給される。帯域 幅とデータはダウンロードを行う人々のネットワークを通して、ユーザー自身 が意識することなく、その他のユーザーに提供される。ファイルの人気が高い ほど、ダウンロードの速度も速くなる。人気のあるファイルのほうが、帯域幅 とファイルの断片を提供するユーザーの数も多いからだ。
BitTorrentはWeb 2.0の重要な原則を体現している。それは、利用者が増 えれば、サービスは自然に改善されるというものだ。Akamaiがサーバを増 やすことによってしかサービスを改善することができないのに対し、 BitTorrentの場合は消費者がこぞってリソースを持ち寄る。同社のサービスに は「参加のアーキテクチャ」、すなわち協力の倫理が織り込まれており、サー ビスは基本的に情報の仲介役として、ウェブの周辺部をつなぎ、ユーザー自身 の力を利用するために存在している。
プラットフォームは常にアプリケーションを凌駕する Microsoftはプラットフォームを切り札に、あらゆる競争に勝利してきた。 過去の競争相手の中には、高い市場シェアを誇ったアプリケーションもある。 同社はWindowsを利用して、Lotus 1-2-3をExcelに、WordPerfectをWordに、そ してNetscape NavigatorをInternet Explorerに置き換えていった。 しかし、今度の戦いはプラットフォームとアプリケーションではなく、まっ たく異なるビジネスモデルを持ったプラットフォーム同士の間で行われている。 一方は、巨大なインストールベースと緊密に統合されたOSやAPIを武器に、プ ログラミングパラダイムを支配しているソフトウェアプロバイダー、もう一方 は共通のプロトコル、オープンな標準、そして協力協定によって結ばれた、所 有者を持たないシステムである。 WindowsはソフトウェアAPIによるプロプライエタリな支配の最たるものだ。 NetscapeはMicrosoftが他のライバルに対して使ったのと同じ方法で、 Microsoftから支配権を奪い取ろうとしたが、その試みは失敗に終わった。一 方、ウェブのオープンな標準にこだわり続けたApacheは成功を収めた。現在の 戦いは、プラットフォーム対アプリケーションという不釣り合いなものではな く、プラットフォーム対プラットフォームという対等なものだ。この戦いでは、 どちらのプラットフォームが--さらに重要なことには、どちらのアーキテクチ ャまたはビジネスモデルが今後のチャンスに適しているかが重要になる。 PC時代の初期には、Windowsは問題を解決するためのすばらしいソリューシ ョンだった。Windowsはアプリケーション開発企業に公平な土俵を提供し、業 界を苦しめていた多くの問題を解決した。しかし、1社が管理する画一的なア プローチは、もはやソリューションではなく、ひとつの問題にすぎない。コミ ュニケーション志向のシステム(プラットフォームとしてのインターネットは 間違いなくそのひとつだ)は相互運用性を必要とする。すべてのインタラクシ ョンの両端を管理することができない限り、ソフトウェアAPIによってユーザ ーをロックインすることは難しい。 プラットフォームを支配することで、アプリケーションのゲインをロックイ ンしようとしているWeb 2.0企業は、必然的に、プラットフォームを切り札に することはなくなるだろう。 ロックインや競争優位を獲得する機会はない、といっているわけではない。 しかし、ソフトウェアAPIやプロトコルを支配することで、そうした機会を手 に入れることは難しくなるだろう。新しいゲームが始まっている。Web 2.0時 代に成功を収めるのは、PCソフトウェア時代のルールに逆戻りしようとする企 業ではなく、新しいゲームのルールを理解している企業である。 |
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス