--ビデオコンテンツならわかりますが、映像を使ったビジネスというのはニッチになりがちではないかと思っていました。わかりづらい商品ならいいですが、消費財はほとんど無理ですよね
そう。通販とかでの利用は無理。だって高級ブランドの鞄をビデオで紹介しなくても山ほど雑誌にきれいな写真で取り上げられている。品番も価格もみんなすでに知っているし、まったく向かない。直し方とか、ビデオでしか伝わらないものがある。そしてビデオは、1分とか2分とかで終わるクリップ感覚のものがいい。それ以上だと飽きるので見てくれない。長い時間のものはまず見てくれない。テレビ的に流してはだめ。
ほかにネットで配信して喜ばれたのは「靴ひもの結び方」とか「ヨットの帆の張り方」とか。どれも、コンテンツとして非常に短い時間で作成できる。1、2、3と誌面で手順を説明されてもわからない。
ネットでやった方がいいことと、ネットでやってはいけないことがある。たとえば、新人の礼儀作法を教えるビデオが発売されていて、その中で名刺の渡し方がある。これはネットでの配信に向いていない。ネットで一番向いているのは、更新が頻繁なものなのだ。そうでないものは、パッケージでいい。だって、去年と今年で名刺の渡し方が変わることはないでしょう。
こうした点から見ると、いまJストリームをよく利用してくれているのはバイオテクノロジーの分野だ。近年、技術がどんどん進んでいるので、薬の処方箋の方法が変わってきている。そして、いままでは「この薬とこの薬は一緒に出してもいい」とされてきたことが、現在では「一緒に出さない方がいい」というように変化していることが多くある。こうした情報は今まで紙で配布してきたが、配布した時点では正しかったこともいまでは駄目になっていることが多い。そのためウェブに移行するようになってきている。いつでも、ウェブに最新の情報があるという状態にしたいわけだ。
--ビデオコンテンツの話だと、USENが運営する無料ネット放送のギャオが広告を入れた映像コンテンツを配信し、放送局も本格的にネットへコンテンツを配信しようとしていますが、この動きをどう見ていますか
ギャオはテレビとまったく同じ広告モデル。ネットでやる以上、ビデオオンデマンド(VOD)は必須になる。スカパー!の映画チャンネルで「これ見たい」と思ったときに、すでにストーリーが始まっていて5分過ぎていたら多くの人は見ない。ネットの場合だと、見たいときに最初から見られるためそうしたVODは必須だ。だから、それを最初からやっているギャオはすごいと思う。
少し話を変えるが、僕は音楽の配信はダウンロードできなければ絶対に使われないと考えている。「ストリーミングでやるミュージックラジオの権利はいくらです」とか販売しているところもあるようだが、無理だと思う。車の中で好きな曲が聴けるなど、音楽はポータビリティが要求されるからだ。
ギャオにつてはすごいと思っているが、はやるかどうかはわからない。この一方で日本テレビの第2日本テレビのほうはといえば、お金を出してテレビのコンテンツをネットで見るかといえば、単純なテレビ番組のビデオだけだったら見ないと思う。ネットじゃなくてテレビで見ればいいから。HDDレコーダーもあるし。
ネット専用でコンテンツを作ると、テレビ局にすれば新たな制作コストや配信コストがかかるうえに課金決済代行手数料もかかって、はたして利益になるかどうかが疑問だ。かといって、番組のビデオコンテンツだけで単体の商売でいくと、僕は絶対にペイしないと考えている。
--では、どうすればうまくいくのでしょうか
じゃあ、デジタルコンテンツ系でどういったビジネスをすればいいかといえば、1つの答えとして、Jストリームでは松任谷由実さんの苗場のコンサート中継を有料でずっと配信していることがある。ライブ自体は2週間ぐらいかけて毎日18時から1時間半ぐらい行われる。ユーザーが毎晩見るためには、有料のアクセス権をその都度購入しなければならない。しかし、権利を購入してしまえば遊園地の入場料と同じで、ライブ映像が見られるほかに、松任谷由実さんとチャットができるし、オークションへも参加できるなど、遊べるものがいくつもある。こうした、いくつかのコンテンツやサービスを入場料課金、1日課金といったモデルでやったほうが、テレビ局がやるんだったらうまくいくのではないか。
テレビ放送局が仮にドラマ番組を核にネットで展開するとしたら、番組をそのまま配信するのではなく、たとえばドラマの出演者が着ていた服のオークションに参加できる権利を付けたり、DVDボックスが発売された際には先行予約ができて価格も通常より安くなったり、いろいろな遊びやお得な要素を付加したうえでお金を徴収しないとだめだろう。
--それは、いままでの放送局のビジネスモデルとはかけ離れていますね
放送局のビジネスモデルにおいてきわめて簡単に言うと、放送局の収入は大手の広告代理店からしか入ってこない。あとはコストなどが出ていくだけのモデルだったのが、エンドユーザーからも直接収入を得て、引き続き広告代理店からももらうとなると、この2つをどううまく組み合わせていくかという新しいモデルを構築していかなければならなくなる。
そのため、さっき言った入場料課金のようなことをやって、ディズニーランドみたいにしてくれると楽しいんだけど……。こういうのを企画するのがウェブ系プロデューサーの仕事なんだろうな。技術の話ははとりあえず横に置いておいて、ユーザーが喜んでくれることは何かということをもっと真剣に考えた方がいい。そういう意味では、エンドユーザーはネットに対してどういうところにモチベーションを持っているかというと、それは3つしかない。1つは「お金が儲かる」か、もう1つは「楽できる」か、最後は「楽しい」か、これしかない。有料課金に向かうモチベーションもまったく同じことだ。
ただし、テレビについて1つ言っておくと、10年経ってもお茶の間のエンターテインメントの王様はテレビ以外考えられない。僕はそう心から信じている。
--この3つをもう少し具体的にいうとどういうことでしょう
たとえば、「明日の円ドル為替相場が100%あたるサイト」があれば、年間10万円払ってもみんな利用してくれるので、そのサイトは確実に儲かる。100%あたらなくても、競馬の予想新聞などはみんなが買う。儲かる可能性のあるものにはお金を払ってくれるわけだ。
次に、楽できることも非常に大事なことだ。たとえば。会社の上司に突然「明日からマダガスカル島に行って現地のことを調べてきてくれ」と言われたらどうするだろう。マダガスカル島の知識はまったくなく、どんな国なのか、治安はどうなのか、公用語はなんなのか。そんな不安なときにウェブで情報を探していて「失敗しないマダガスカル島の現地調査方法」というビデオが売っていたら、絶対に購入するだろう。トレーニングの要素と探す手間が省けるし、楽ができるから買うわけだ。
また、楽しいというのは好きなアーティストのファンクラブに入ったり、趣味を満たしてくれたりということ。こうした3要素の1つ以上が満たされないかぎり、ビジネスは絶対に成立しない。
そのうえで、有料コンテンツはお金を徴収するわけだから、ほかにも僕が“逆ユビキタス”と呼んでいる要素がいる。「今だけ」「ここだけ」「あなただけ」という要素だ。ユーザーがウェブに向かうときというのは、何らかの答えを求めているときだ。結局、その答えがあるサイトには長く滞在するわけで、サイト運営者はこうした答えを用意してあげなくてはならない。
--最後に、ポッドキャスティングはどう考えてますか
音楽じゃなくて声を持ち歩く、お話を持ち歩くことだと思っている。今いわれているポッドキャスティングは、ブログなどを書くのが面倒な人や、携帯電話で思いついたことだけ入れておく人など、言葉の断片がウェブページに貼り付けられたあとに、流通するんだろうなあと考えている。
ポッドキャスティングについてJストリームでは、ビデオブログをオーディオブログの形にして、滞在時間を長くすることで広告ビジネスをしようとしている。ビジネスモデル的には米国でやっているものをもってきたという形で、新しい感じはないけれども。
個人的には朗読テープやセミナーの声などをポッドキャスティングで聞くと、むちゃくちゃ頭に入ってきてびっくり。講演セミナーなどはきっと流通するだろうと考えている。「地獄の特訓セミナー」といった講演内容のカセットテープが書店などで売られているが、中身を試して聞けないからなかなか売れない。これがポッドキャスティングなら試せる。音楽ではなく、こういうものが確実に流通するだろう。
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