以前にもこのコラムで取り上げたLLP(有限責任事業組合)という新しいカタチの組織を実現する法令が8月1日から施行された。その日だけでも全国で10件強の登記申し込みがあったという。巷では「(LLPは)ベンチャー設立にぴったり」という評価もあるようだが、少し頭を傾げたくなる文脈で語られることも多々ある。なぜなら、ベンチャーといっても一般にイメージしやすい「目指せ六本木ヒルズ!」型のベンチャー企業にはLLPは適していないからだ。
LLP組成・登記を経験して
8月1日に株式会社シンクが登記申し込みを行ったコンテンツ製作のための有限事業責任組合(LLP)「ジャパニメーション・パートナーズLLP」が24日に正式登記された(シンクのサイトに詳細を掲載)。それを受けて、申し込みはすでに完了している同LLPのドメイン「japanimation.co.jp」の登録も完了した(組合であってもLLPは、or.jpやgr.jp以外に、co.jpドメインが選択できる)。
コンテンツ産業で最初のLLPということもあってか、その登記はさまざまな新聞や雑誌でも取り上げていただいた。しかし、本当のチャレンジは登記ではなく、事業そのものであり、LLPの真価が問われる1年後の事業評価(LLPは任意組合と異なり、登記と財務諸表の制作が義務つけられている)だ。その際、構成員課税という税制メリットがどのように取り扱われるかどうかだろう。構成員課税とは、税金がLLPではなく出資者である構成員に直接課税されるというもので、LLPで法人課税が課された上に出資者への配当に課税されるという二重課税が回避できる。
なぜ構成員課税が焦点になるかというと、LLPの運用にはまだはっきりしない部分もあるからだ。この春、「有限責任事業組合契約に関する法律」が国会を通過し、その施行日が決定されたのは7月の半ば。それから施行内容の詳細を定めた法律施行令が発表されたのは施行日の1週間ほど前だ。当初、LLPの活用は公認会計士や弁護士などのプロフェッショナルな「士」族の人の活用が推奨されていた。しかし施行令(いわゆる省令)では、そういった士族の人が本来の業務を実施するためにLLPを組成することが禁止されるなど、若干の混乱があったという。
今後も、新しい仕組みゆえの問題が出てきても致し方あるまい。とはいえ、それ以上の価値があるとみなされているがLLPなのである。
さて、この登記に先立ってLLPという新しい組織のカタチを紹介するコラム(「LLPという組織の新しいカタチは働き方を変えるか」)を書いたとき、いくつかのコメントをいただいた。その関連のブログエントリや書籍の紹介を辿っていくと、「ベンチャーとして成功を収めるためにも、敷居の低いLLPがよい」とか、「LLPで六本木ヒルズをめざせ!」といったものなど、ベンチャーにLLPの活用を勧めるコメントが多々ある。また、「そんな目新しい組織は日本に定着するはずはない」という、新しい組織の試みに背を向ける人もいる。
LLPはエグジットできない
しかし、どうも僕にはピンと来ないものが多い。元のコラムの出来が悪いといわれてしまえば致し方ないが、「これまでとは異なる働き方を、LLPのような人的資本中心型の組織構造は可能にする。結果、これまでのようなカリスマ起業家でなくとも、平等なチームメンバーの自治で成立する組織という、ヒエラルキー型の組織とは異なる働き方を望む人にも起業の機会が増大するだろう」といった内容を伝えたかったわけで、決して「LLPはこれまでよりも起業しやすい」とか、「LLPだと、楽天やライブドア、GMOインターネット、サイバーエージェント、インデックスといったドットコムバブルを生き残った企業のような成功が容易(とか、近道)になる」といった覚えはない。しかし、そんなニュアンスでとらえた人も多かったようだ。
実際、LLPは、組合員の拠出金でのみ成立する事業「組合」だ。株式会社のような法人格を持った組織ではないし、組合員の供出金に対して有価証券を発行したりしない。そのため、株式の市場公開(IPO)といった資金調達手段はありえない(参考:経済産業省の発表資料)。
当然のことながら、LLPでは通常の企業のように組織そのものをM&Aすることもできないため、IPOを含めた一般的なエグジット(投資資金の回収)はできないのだ(もちろん、事業譲渡によって組合員配当を行うことはできるが、企業買収とは異なるプロセスが必要となる)。
また、有限会社が株式会社に変身できるようには、LLPは株式会社になることはできない。会社ではなく、あくまで組合だからだ。もしLLPが株式会社になりたければ、いったんLLPを清算・解散し、その上で再度株式会社を組成する必要があるのだ(組合から会社への移行はできないのだから、新会社法で準備されたLLC(合同会社)に移行もできない)。
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