KDDIは6月下旬より、au携帯電話端末にバグが発生した場合、ファームウェアを無線経由で自動的にアップデートするサービス「ケータイアップデート」を開始した。この技術を提供したのが米InnoPath Softwareだ。
同社の技術はNTTドコモなどに採用されており、携帯電話向けの無線アップデート市場における国内シェアは90%にのぼるという。同社の今後の戦略について、InnoPath Softwareマーケティング・ビジネス部門のシニアバイスプレジデントであるデイビッド・シム・スミス氏と、日本法人であるInnopathソフトウェア代表取締役社長の松田芳明氏に話を聞いた。
「携帯電話のコンテンツ配信市場には大きなチャンスがある」と語るスミス氏(右)
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InnoPathは1999年に創業したベンチャー企業で、シリコンバレーに本社を置く。同社の無線ファームウェアアップデート技術は、2003年に世界で初めてNTTドコモが商用サービスに利用した。端末メーカーとしてはNEC、パナソニック モバイルコミュニケーションズ、シャープなどが同社とパートナー契約を結んでいる。
無線アップデートが注目されるのは、携帯電話の高機能化に伴って端末をリリースした後にバグが見つかることが増えたためだ。2001年にはNTTドコモの複数の端末でバグが見つかり、対象端末の回収費用が大きな負担となって端末メーカーの業績が悪化した。無線でバグが修正できれば端末を回収せずに済むため、メーカーや通信事業者の負担が大幅に減る。また、ユーザーにとってはバグ修正が簡単にできるメリットがある。
NTTドコモの場合は、アップデートをユーザーが手動で行う必要がある。しかしKDDIの新サービスでは、ユーザーが操作しなくても自動的にファームウェアが更新される。松田氏によれば、InnoPathの技術を利用してサーバーから自動的にソフトウェアの更新を行うのはKDDIが初めてだという。なお、このサービスの利用料、通信料はともに無料だ。
7月6日には東芝製の端末「W31T」で不具合が起き、ケータイアップデートを使った初のソフト更新が7月11日から順次行われた。ユーザーの利用が少ない夜間帯を使うことでユーザーへの影響を最小限にした。対象端末は11万9000台だったが、現在までのところ特に問題は起きていないという。
これまで無線を使ったバグ修正を手がけてきた同社だが、今後は同じ技術を使って、アンチウイルスソフトの自動更新やユーザーインタフェースソフトの配信などを手がける方針だ。「無線アップデート技術は、通信事業者やメーカーのコストを削減するだけでなく、新たな収益を生み出すことも可能だ」(スミス氏)
LinuxやSymbianといった高機能OSが携帯電話に搭載されたことで、アンチウイルスソフトへのニーズは高まっている。多くの携帯電話が同じOSを搭載するようになれば、PCと同じようにウイルスに狙われる危険性が高まるからだ。日本では今のところ携帯電話の大きなウイルス被害は報告されていないが、Cabirなど携帯電話を狙ったウイルスの報告例は着実に増えている。
すでにNTTドコモはMcAfeeと共同で、外部から取り込むデータに問題がないかどうかを自動的にチェックする「セキュリティスキャン機能」をFOMA 901iシリーズから搭載している。ただし、定義ソフトのアップデートはユーザーが手動で行う必要がある。
InnoPathでは2006年にも、ウイルス対策ソフトの自動アップデートサービスを提供したい考えだ。ウイルスの定義ソフトのほか、エンジンの更新もできるようにする。遠隔デバイス診断技術や、データの遠隔消去サービスなどと組み合わせて、セキュリティパッケージとして通信事業者に提供するとしている。
アクロディアのGUIを使ったメニュー画面の例。3DやFlashなどさまざまなフォーマットに対応する。 |
もう1つ同社が注目するのがユーザーインターフェースの配信だ。3月には、ユーザーがソフトウェアを更新することで携帯電話のグラフィックユーザーインタフェース(GUI)を自由に変えられる「VIVID UI」という技術をもつアクロディアと提携した。VIVID UIは3Dの動画などにも対応しており、メニュー画面でも動きのある表現が可能になる。また、ニュースなどの情報を待受画面にリアルタイムで表示する機能も備えており、ユーザーが最新の情報をいつでも待受画面で見ることができる。
両社は壁紙や着信音、アイコンなどをパッケージにして、ユーザーが1クリックするだけですべてのコンテンツがダウンロードできるようにする。「ユーザー調査を行ったところ、95%が『もしこのようなサービスがあれば利用したい』と答えた。端末のデザインをユーザーが変えられる着せ替えケータイが人気を集めており、ユーザーインタフェースでも同様のサービスへのニーズは強いはずだ」(松田氏)
このサービスは、特定の層にアピールしたい事業者にメリットがあるとみている。たとえばキャラクターやアーティストのGUIパッケージを若年層に提供したり、株価情報などのビジネス情報をリアルタイムに待受画面に表示させるサービスをビジネスパーソン向けに提供したりすることが考えられるという。
ただしこのサービスを商用化するには、短時間でソフトウェアの更新ができるように、同社のシステムの性能を改善する必要があると松田氏は話す。「1度ソフトウェアを更新すれば済むバグ修正と異なり、ユーザーインターフェースは毎日変えるユーザーもいる」(松田氏)ためだ。1つのGUIパッケージのファイルサイズは3Mバイトほどとなるため、更新された差分のみを配信する技術などを使い、高速化を図る考えだ。
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