アプリケーション基盤を整え戦略投資の比率を上げる
百貨店大手の丸井では、長年使い込まれたメインフレーム主体のITインフラを捨て、J2EEフレームワークに取り替えた。インフラを再構築することで、システム費用を抑制しながら、戦略的IT投資の比率を向上させ競争力を強化する。
ユーザー・システム・カルテ
会
社
概
要名称
丸井
所在地
東京都中野区中野4-3-2
業種
百貨店小売業・消費者ローンなどのサービス業
売上高
5588億円(連結・2002年)
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
概
要システム名称
新営業系・顧客系システム
適用業務
計画・実績・売場・MDなど
アーキテクチャ
Webシステム、J2EE
カットオーバー時期
2004年10月(第1STEP)
社内開発スタッフ
35名
協力インテグレータ
ウルシステムズほか
開発に要した日数
約1年半
丸井グループは2004年10月、100億円を投じた新基幹システムの一部をカットオーバーさせた。1年後の2005年10月までに、主要な基幹システムを段階的に稼働させる。新システムにより、営業情報を迅速かつ詳細に分析できるようになるほか、マーチャン・ダイジング(MD)業務を高度化する。売場オペレーションを効率化したり、取引先とのコラボレーションを推進するなど、丸井のバリューチェーンを広範にカバーする大規模なシステムとなる。内容を見ても、リアルタイムの単品管理を実現するなど、極めて野心的な取り組みと言える。
今回のプロジェクトの特徴は、こうした新機能を実現するために、インフラを含めて刷新した点にある。丸井では従来、IBM製メインフレーム上に新規アプリケーションを継ぎ足してきた。新基幹システムの機能は、こうした従来手法によっても可能だと考えられたが、今回あえてJ2EEフレームワーク上にアプリケーションを開発することにした。
当然、インフラを大規模に見直す分、投資額は膨らんだ。新技術を導入するリスクも大きかった。だが丸井には、あえてそうした困難に挑戦する理由があった。
長年育て上げたインフラが限界に近づく
実は丸井は、歴史的にIT投資に積極的な企業だ。66年には、百貨店業界では初めて情報システムを導入。74年には、同様に業界初となるPOSオンラインシステムを稼働させている。
背景には、丸井独特のビジネスモデルがある。同社は、他の百貨店が現金での商品販売にこだわる中、クレジットカードを武器に大きく成長してきた。これは、与信などの顧客管理が重要な位置を占めることを意味する。こうした分野には、情報システムが大きな威力を発揮する。クレジットカードの利用が一般化した現在でも、丸井は他の百貨店に比べて大きなIT投資を実施しているという。
66年にIBM機を導入して以来、丸井は自社システムを丁寧に育ててきた。VSAMファイルシステム上にアセンブラとCOBOLでアプリケーションを開発するという形態を維持しながら、新機能を追加していった。
だが、丸井グループ全体のIT戦略を担当する、エムアンドシーシステム・システム企画本部佐藤元彦本部長は、こうした状況に危機感を抱いていた。
継ぎ足しで肥大化してしまった基幹システムの運用には、膨大な手間と労力がかかっていた。たとえば、VSAMのファイルシステムでは、1ファイルの大きさが2GBまでと制限されているため、データを自動的に複数ファイルに分割格納し、一元的に検索できるアーキテクチャを独自に開発するなどだ。
新規に機能を追加する際にも、その都度影響範囲を調査しなくてはならず、テスト作業も負担となっていた。結果、追加開発のたびに大きなコストと時間を要し、経営や現場のニーズに応えられなくなってきた。
だが、もっとも危惧されたのが、人材の問題だった。アセンブラとCOBOLで開発されたシステムを維持するには、こうした言語に通じた人材を多く確保しなくてはならない。だが、ベテラン開発者はいずれ退職していく。協力会社にしても事情は同じだった。かと言って、若手に古い技術を継承するのも問題だった。
今後、戦略的なIT投資はさらに増大すると予想された。このようなインフラのまま、新規開発を続けていけば、どこかで破綻してしまう。
戦略投資の比率を増大させる
エムアンドシーシステム システム企画本部 常務取締役 佐藤元彦本部長 |
佐藤本部長が既存インフラの限界を危惧し始めた頃、丸井グループは中期経営計画の策定に着手していた。
バブル崩壊以降、小売業界では同じ商圏に過剰な店舗が競合する状態が慢性化している。また、店舗の差別化戦略も行き詰まり、「どこの店でも同じ」という同質化が進行。結果として、差益率が低下し続けていた。
厳しい環境下でさらに成長を続けるため、いくつかの方針が立てられた。市場動向に応じて迅速に店舗の展開と閉鎖を進める「スクラップ・アンド・ビルド政策」の推進や、独自のカード戦略とサービス事業の展開。売場の強化やグループ経営体制への移行などだ。
こうした経営革新には、情報システムの支えが不可欠だ。だが、前述したように既存のITインフラには限界が見え始めている。そこで佐藤本部長は、それまで蓄積したIT資産を捨て、新たなアーキテクチャへ移行することを経営側に提案した。
だが、インフラの刷新となると、投資額は100億円に達するビッグプロジェクトとなる。投資対効果を説明できなくては、経営側も納得しない。そこで、野村総合研究所のコンサルタントに既存システムの評価を依頼。従前のインフラを継続した場合と、インフラを刷新した場合とで将来の投資額の予測を立てた。その結果、「現行システムが提供している機能は非常にすぐれているものの、基盤としているアーキテクチャが古く、数年後には保守が困難となり維持管理だけで膨大なコストが必要になってくる」との分析結果が出た。また、システムを再構築した場合には、「開発にかかる3年間は年間コストが増加するものの、その後は維持・保守コストの減少により、現在の水準よりも年間コストが圧縮できる上、同じコストでも維持管理の比率が減少、その分差別化に繋がる戦略投資の額を増やす事が可能」との試算ができた。これによって、プロジェクトにゴーサインが出ることになった。
佐藤本部長は、「新規アプリケーション開発などの戦略的投資と、インフラのメンテナンスコストやリソースの償却費の割合は、大体2:8でした。今回のプロジェクトは、戦略的投資の比重を増やしていくための打ち手です。コスト削減だけを目指したものではありません」と語っている。
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