Craig Barrettが来年5月にIntelのCEOの座から退くとき、シリコンバレーの歴史のある部分もまた、幕を閉じることになるだろう。
サンフランシスコ出身のBarrettは、Intelがマイクロプロセッサの製造方法を完成の域まで高めることに大きく貢献し、最近では同社による新分野進出の先頭に立ってきた。この間に同氏は、デジタルホーム向けの機器用チップの立ち上げや新しいワイヤレス技術の開発に立ち会ってもいる。
しかし、近年のBarrettはむしろ、教育問題や米国の競争力について歯に衣着せぬ考えを述べる、IT業界きっての論客として知られている。Intelを去った後も、Barrettはこの2つのテーマに取り組んでいくことだろう。
Barrettは1974年の入社以来、Intelと共に幾多の浮き沈みを経験してきた。日本企業と熾烈な価格競争を繰り広げたこともあれば、1990年代末のドットコムブームに乗り、記録的な高収益をたたき出したこともある。Intelは現社長Paul Otelliniのもとで、今後もPCプロセッサ業界を支配していくだろう。しかし、この市場もいま踊り場を迎えている。同社は利幅の減少に直面しているほか、長年のライバルAdvanced Micro Devicesや中国企業などの新たな挑戦者との激しい競争にさらされている。
CNET News.comは先ごろBarrettにインタビューを行った。
--Intelの売上の約70%を生み出しているのは海外の新興市場です。新興諸国では製造原価が下がりつつありますが、売上が増えるほど、利幅が薄くなっていると感じますか。これらの市場では、ハードウェアは常に価格圧力にさらされているといえるでしょう。しかし興味深いことに、一部の新興市場は最新技術を取り入れるのも非常に早い。IntelがPentium IIIからPentium 4に移行したとき、一番先にPentium 4が市場の50%を超えたのはどの市場だと思いますか。最新プロセッサへの移行が最も早かったのはどの国だと思いますか。これは私のお気に入りの質問なのですが、答えは中国です--米国よりも中国の方が早かったのです。産業の成長率でいえば、中国は米国よりも急速に発展しています。一般に、中国は米国よりも価格圧力が大きいため、低価格帯に需要が集まり、逆に米国は高価格帯に需要が集まると考えられています。しかし、実際はそうではない。中国はブランド志向が強いので、上位製品が売れるのです。
--Intelはこれまで、コンピューティングと通信の融合を前提に意思決定を行ってきました。Intelは5年先にこの市場でどんな位置を占めていると思いますか。現在、当社がコンピューティング、特にマイクロプロセッサ市場で占めているような位置は期待できないでしょう。また、当社がこの分野で「intel inside(インテル入ってる)」に匹敵するブランドを確立することもないと思います。これは経済的な理由によるものです。量販型の携帯電話には40ドル程度の半導体が使われています。現実問題として、約40ドルの製品のために、intel insideと同等のブランディング・キャンペーンを展開しても(金銭的に)割に合いません。
--では、家電市場にはどう食い込むつもりですか。昔ながらのやり方です。他社よりもすぐれた技術を、よりよい部品を開発するのです。ご存じの通り、当社はまだ携帯電話市場に入り込むきっかけをつかめていません・・・しかし、この競争には昔ながらの方法--つまり技術、価格、そして顧客サービスで臨むほかない。厳しい世界です。競争を避けることはできません。
--Intelと同様に、Microsoftも家電分野に参入しようとしています。「Wintel」という言葉に象徴されるように、両社はPC市場でがっちりとタッグを組んできました。家電市場では、両社の関係は少し違ったものとなるのでしょうか。IntelとMicrosoftはPCに目を付け、この市場と共に成長してきました。それに対して、家電市場はすでに存在し、複数の大手企業も活躍しています。我々がこの市場でなすべきことは、既存のプレイヤーを駆逐することではなく、こうした企業の製品に採用されることです。我々は既存企業に取って代わろうとしているのではなく、こうした企業によりよいソリューションを提供しようとしているのです。
--エンジニアとして、またこの市場を開拓した張本人として、Intel製プロセッサを搭載した機器には愛着をお持ちだと思います。そのなかでも特に気に入っているものはありますか。そうですね、まずはBlackBerry、それからもちろんPC。3面スクリーンにも目がありません。娯楽作品は大画面で、双方向性が求められるものはPCで、携帯電話やショートメッセージにはBlackBerryを使っています。正直なところ、私はこうした機器が相互依存関係にあるという議論には賛成できません。むしろ、こうした機器は補完関係にあると思っています。
--つまり、ガジェットをむやみに買い込んだりはしないと。そうです。でも、我が家にはAV機器の部屋がありますよ。これは大きなメディアルームで、最先端の機器と分散サウンドシステムが完備されています。デジタルカメラも好きで、よく使っています。でも、そのくらいですね。
--自宅の地下に、チップを設計するための小部屋があったりはしないのですか。まさか。地下室では釣りの準備をするくらいです。
--デジタルホームについてお尋ねします。以前、エンターテインメントPCに言及されたことがありますが、この分野のライバルの顔ぶれは、PC市場とは違うものになるのでしょうか。エンターテイメント市場にはPC企業だけでなく、家電企業も参入し、何らかの新しい試みを展開することになるでしょう。それがゲートウェイの役目を果たすPCとなるのか、インテリジェントなセットトップボックスとなるのか、あるいは両者が共存するのかはまだ分かりません。Intelにとっての挑戦は、何らかの分野でデザインウィン(製品に採用されること)を獲得し、その分野の製品の基盤となることです。PC業界出身であることの1つの利点は、PCは最初からデジタルであったこと、あらゆる機器がデジタル化する過程で、そのノウハウを活用できることです。
--中国ではいつ頃から、マイクロプロセッサ市場の競争が激化するのでしょうか。我々は一貫して、中国は日本とまったく同じシナリオをたどると主張してきました。この予測は現実のものとなりつつあります。かつて、日本のコンピュータ、半導体、そして家電業界は垂直統合されていました。それに対して、中国では若干展開が異なります。彼らはまず半導体製造のインフラを整え、そこに数多くの小規模な設計会社をつくろうとしています。また、日本が多数の独自基準を設けていたように、中国も独自の基準を作ろうとしています。
--次の動きは。チップセット、プロセッサ、そしてメモリでしょう。中国のモデルは、まずファウンドリを構築し、その後、知的財産の創造とエンドユーザー向け製品の生産に移行するというものです。それは明らかです。しかし、この戦いは我々がこの35年間に経験してきたものと、何ら変わるところはありません。我々はこれまで、当社と直接競合するヨーロッパ、日本、そして米国の企業と戦ってきました。今度はそこに中国企業が加わるのです。
--しかし、市場規模を考えると、中国との競争は過去の例とは大きく異なるのでは。
比率で考えればそんなことはありません。当社が日本企業としのぎを削った1980年代に、世界における日本の市場シェアは10%程度でした。現在の中国の市場シェアも、おそらくは10%程度です。市場の観点からすれば、両者に大きな違いはない。日本と中国にはたくさんの類似点があります。
--しかし、あなたに残された時間はわずかです。退任後も、この戦いの行方を見守っていくつもりですよ。
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