第3回:敵対か協働か--新たな協力関係を目指して

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 ネットオークションと知的財産権をめぐる攻防に関して、前回は知的財産権侵害物の売買に不満を募らせる権利者側と、それに対して困惑するオークション運営者側の本音に迫った。両者の敵対関係は知的財産権の保護に役立つどころか、問題を一層深刻にしている状況が浮き彫りにされたが、この悪循環を断ち切るため、双方が歩み寄って新たな協力関係を模索する動きが次々と生まれている。今回は、サービス提供者と権利者の具体的な協力体制の仕組みや実際の効果、またそれにより新たに生まれた課題について探ってみた。

協力体制の第一歩:知的財産権保護プログラム

 ネットオークションで売買される知的財産権侵害物に関して、サービス提供者側は早くから独自にさまざまな取り組みを行ってきた。国内で最大規模のオークションサイトであるYahoo!オークションでは、1999年9月のサービス開始から1年足らずで、違法出品物を見つけるためのパトロールチームを発足させた。ヤフーの別所直哉法務部長は、「パトロールは365日、24時間行っています。出品数がきわめて多いので、問題になりそうな可能性のある出品をキーワードで選別し、抜き打ちでチェックします。違法出品物の発見には、それほど時間はかかっていません」と語る。パトロールの人数は公表されていないが、今年1月には発足時の3倍の人数に増やし、パトロールチームの強化を図っている(表1)。

(表1)ヤフーの知的財産権侵害物に対する取り組み
2000年2月メール認証開始
2000年11月社内パトロールチーム設置
2001年5月参加者(出品者・落札者)の本人確認開始
2001年8月パトロールチーム:365日24時間対応開始
2002年5-6月システム利用料の徴収開始
2003年2月パトロールチームの強化(1.5倍)
2003年11月知的財産権保護プログラム開始
2004年1月パトロールチームの強化(3倍)
2004年1月コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)との合意
2004年6月日本音楽事業者協会との合意
2004年7月郵送による住所確認開始

 しかし、サービス提供者側の取り組みだけでは、知的財産権侵害物の出品を食い止めることはできない。権利者からの情報提供がどうしても必要になってくるが、権利者がヤフーに削除依頼を行うには煩雑な書類のやり取りが要求された。会社の登記簿謄本や、侵害行為が行なわれているという専門家鑑定書など、 正当性を示すための必要書類を毎回提出するというものだ。こうした手続きは「対応を回避するための口実」という批判の声が強まり、ヤフーは権利者との新たな協力体制作りを模索しはじめ、2002年5月から「知的財産権保護プログラム」という権利者の知的財産権の保護を強化する制度を開始した。

 ヤフーの別所法務部長は、「ヤフーとしても批判を浴びていたので、何らかの姿勢を示す必要がありました。そこで、落札されない早い段階で違法品の売買を食い止めるために、(サービス提供者と権利者の)協力関係を作り上げることが重要だと考えたのです」と語る。

 情報提供と削除をスムーズに行うための同プログラムは、2002年5月27日に施行された「プロバイダ責任制限法」(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)、および当該法律を受けて社団法人テレコムサービス協会が提供した「プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」を参考にして作成された。「プログラムA」と「プログラムB」という2種類のプログラムが用意されており、Aは権利侵害品の掲載URLや特許・商標などの登録証、ライセンス契約の写しなどを郵送で送付してもらい、その都度侵害に当たるかどうかを判断する一般向けのプログラム。Bは、あらかじめ登録すればあとはメールで削除依頼を送ってもらい違法出品物を削除する契約団体向けのプログラムだ。現在、バンダイ、MTV JAPAN、ソースネクスト、肖像パブリシティ権擁護監視機構など50近い企業や権利団体がプログラムBに参加している。

 ビッダーズや楽天フリマなどのヤフー以外のオークションサイトでは、現在のところ、こうした知的財産権保護のプログラムは実施していない。しかし、類似した仕組みで対応しており、オークションサイトの足並みはそろっているという。ビッダーズを運営するディー・エヌ・エーの春田真取締役総合企画部長は、「ビッダーズでは、ヤフーのような知的財産権保護プログラムは作成していませんが、社内で決まったルールがあり、違法品の削除に関しては迅速に対応しています」と語る。

ヤフーとACCS、対立から協力体制へ

 一方、知的財産権保護プログラムに関して努力は認めるものの、賛同はできないという権利者もいる。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)戦略法務室の葛山博志室長は、「このプログラムは、主催者(ヤフー)の責任は免責されることに同意するなど、必要のないことまでが(参加規約に)記載されている点に賛同できませんでした。責任の所在は司法制度にゆだねるべきことであり、こうした条項は含めるべきではありません」と主張する。

 しかし、対立姿勢を強めることは、知的財産権の保護にはつながらない。そこで、権利者側からも歩み寄りの姿勢を見せる動きが出てきた。ACCS戦略法務室の葛山室長は「完全に対立するのではなく、何らかの接点を見い出して協力体制を築くことにしました。以前にも、プロバイダ責任制限法の制定で、権利者側とプロバイダー側が議論しながら一緒にガイドラインを作成したという経験があります。そのときの経験から、たとえ見解が対立するなかであっても、双方の協力関係を築き上げることが可能だという自信を持ったのです」と語る。

 違法出品を食い止めるためには、事前に知的財産権侵害物に関する情報を共有し、迅速に行動を起こすことが必要になる。ACCSでは、これらを踏まえた合理的な作業分担および具体的な協力関係の提案を行った。ヤフーもACCSの呼びかけに応じ、互いに議論を重ねた末、今年1月に違法品削除に関する双方の取り決めを発表した。その合意の骨子は、詳細な削除基準とその対応方法を共通で取り決め発見・削除の連絡体制を強化すること、著作権侵害の実態を調査・協議し状況に応じて随時削除基準に反映していく努力を継続して行うこと、両者が共同で著作権保護を呼びかけ違法出品の排除・防止に努めることである。

 ヤフーの別所法務部長は、「違法品の判断は、画像と表現方法に限られています。そこで、どのようにして特定の表現方法を確認して削除するかの議論を重ねました。取り決めに合意した後、実際に運用を開始するには1カ月ほどかかりましたが、ACCSが一番懸念していた類型に関しては大きな効果が出ており、常時1000件あった対象類型がほぼ0件になりました」と成果のほどを語る。

いたちごっこの様相を呈する隠語探し

 この結果に、ソフトウェア会社はおおむね満足しているという。対象とされた著作権侵害物は一斉に削除され、出品者はなぜ削除されるのか分からず最初の頃は混乱が見られたそうだ。出品物の削除に関するクレームが来ることをあらかじめ想定し、苦情のメールはACCS側で引き受けるという取り決めも行っていたが、クレームは1件もなかったという。この結果により、削除された出品者は確信犯だったとACCSでは考えている。また、取り決めのルールでは、ACCSが著作権侵害物の申し立てをした後でヤフーが削除を行うことになっていたが、基準に応じてヤフーが自主的に削除する場合もあり、協力体制が実を結んだ形になった。

 ただし、1000件が0件になったというのはあくまで特定類型の削除であり、ほかの商品に関しての取り組みはこれから随時行われることになる。「現在はソフトウェアの話だけに留めていますが、ACCSの会員企業は幅広い製品をあつかっているので、それらの製品に帯する取り組みがなされていないという指摘もありました。DVDやキャラクターグッズといった商品にもこの体制を拡張する準備をしています」(ACCSの葛山室長)

 また、新たな課題として、同類型のソフトであってもコピー品を表す隠語は刻々と変わっていくため、海賊版かどうかを判断できない商品が増えてきたという。削除される側も知恵を絞っており、最近のトレンドとしては海賊版を表す言葉を使わなくても、海賊版と分かるような出品が増えているという。特定の隠語が商品記述に含まれている場合は削除するというように、削除方法を取り決めることが困難になっているのだ。実際のところ、ACCSとヤフーではこうした新たな動きに対応できなくなり、削除基準の見直しを行っている最中だという。両者は毎月話し合いの場を設けて、新たな隠語や違法物出品の傾向に関して協議を続けている。

肖像権、アニメ作品でも協力体制を確立

 試行錯誤を重ねつつも、ソフトウェアの分野では権利者とサービス提供者が手を結び、協力体制を取ることに成功したといえる。ヤフーはこれに続いて、今年6月14日に、メディア会社や音楽プロダクションの権利団体である日本音楽事業者協会(音事協)と肖像権の侵害に対する対策を行うことで合意した。人気アーティストの写真集を無断で複製したり、イベント会場で撮影した写真のオークション出品が増えているが、こうした出品物の削除に積極的に取り組んでいる。音楽著作権に関する話はまだ行われていないが、現在、アニメーション業界団体である日本動画協会とも類似した協力体制に向けて協議している最中であり、削除基準や違法品を発見したときの連絡方法など具体的な話を詰めているという。

 業界の取り組みが一番遅れているのは、ブランドおよび商標関連の分野である。その理由を、ヤフーの別所法務部長はこう分析する。「(ブランドおよび商標関連の業界団体は)インターネット上のサービスに十分な理解を得ることが難しい業界だと思います。たとえば、ACCSの参加企業はインターネットを使ってビジネスを行う企業が多いので、問題があればそれを解決して、サービスを展開すべきだと考えています。また、日本動画協会もインターネットを使ったダウンロード販売を念頭に置いており、音事協に所属するタレント事務所もメディアとしてインターネットを有効活用する方向に動いているので、基本的にACCSと同じ考えで積極的に取り組んでいます。しかし、ブランドの場合は、ヨーロッパや日本など地域別に価格が異なることもあり、インターネットで商品を販売するより、実店舗での販売に力を入れている企業が多いのです」

 ブランド企業の業界団体であるユニオン・デ・ファブリカンでは、偽ブランド品の取り締まりに長年取り組んでいるが、オークションサイトで出品されている偽ブランド品はこれまでの類型とは大きく異なっているという。同団体は現在、オークションサイトに出品されている模倣品と思われる商品を落札し、インターネットに特化した対策を模索するための分析を続けている。関係者の話によると、落札その他でかなりのコストがかかっており、オークションサイト側にも費用を負担してもらう話が今後は出てくると予想する。コスト負担の話はまだ時期尚早としながらも、ブランド品の売上減少とコスト増加に対する大きな不満があることは間違いないという。一方、サービス提供者は、権利者からの情報提供を受けて措置を講じて行くことがもっとも効果的であり、権利者は自らの費用で監視および摘発を行う役割があると主張している。

 新たな流通経路としての地位を確立したオークションサイトは、知的財産権においてこれまで想定できなかった事態を招いているが、視点を変えると既存の知的財産権に関する現行法では対応が難しい領域に踏み込んでいるともいえる。たとえば、これまで有体物への物理的な「複製」を中心に規定されてきた著作権法が、ネットワークの発達によって複製のない「使用」に移行していった場合に、著作権者の権利をどう保護すべきなのか?次回は、現行の法制度がかかえる問題点を取り上げつつ、新しい取り組みや法整備の状況について探っていく。

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