「米国にはいま前人未踏の領域をめざす果敢な取り組みがない」
米国における研究開発の取り組みがあまりに安全志向すぎるため、飛躍的進歩が見込めない現状を憂慮する人々の声を一言でいうとこうなる。
米国ではここ数カ月、科学/工学分野の博士号取得者や海外留学生の減少が大きな話題となっているが、その原因については意見が大きく分かれている。しかし、原因について見解を異にする人々も、大学院生や科学者らが最近行なっている実際の実験について何かが間違っていると感じている点では同じだ。
米連邦政府に対し、科学・技術に関する様々な問題について助言を行なっている全米科学アカデミー(NAS)のBruce Alberts会長は、昨年行なった演説の中で、「われわれはあまりにリスクを避けたがる若い科学者のために奨励制度を設けた」と述べた。これは、生物学研究についての発言だが、同会長は「科学の他の多くの分野でも、同様のことが言えるのではないか」と指摘した。
新技術を創造し、生活水準を向上させ、さらにはいくつもの産業を生み出す研究開発(R&D)について、確かに、米国の制度が崩壊しているとはいえない。実際、米国の研究開発費は他のどの国よりも多い。また昨年、物理学、化学、医学の各分野でノーベル賞を受賞した7人のうち5人は米国機関の関係者だ。さらにMicrosoft、IBM、Hewlett-Packard(HP)といった米国のIT企業も国内の研究所で行なわれているプロジェクトに資金を注入し続けている。
しかし、米国の、新たな識見を生み出すためのシステムに、トラブルの兆候が見られることも事実だ。それらの同じIT企業が、研究開発費の一部をインドなどの低コストの国々にある研究所に振り向けている。現在米国では雇用やサービスを海外に移転する、いわゆる「海外アウトソーシング」が拡大する傾向にある。海外での研究開発への予算割り当てもその一環で、IT分野における米国のリーダーシップを脅かしかねないと、この傾向を危惧する向きもある。また学問研究に対する企業の支援の効果が薄れているのではないか、との疑問の声も上がっている。
さらに米国における昨年の研究開発費は284億ドルと、前年からわずか1%しか増加していない。1994年から2000年までの平均年間増加率が5.8%だったことを考えると、これは大幅な後退といえる。確かに景気の低迷も一因ではあるが、米国が競争力を失う危険性は依然として残っている。他の国々が研究関連の取り組みを強化している点を指摘する専門家もいる。
米国のシンクタンクRandのアナリスト、Donna Fossumによると、米国やその他の国々における研究活動では、応用研究の比重が高まったという。「この世界の全体構造が変化した。誰もが応用目的をさがしている。『今、それをどのように使うことができるだろうか』と考えているのだ」(Fossum)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス