Samsungのハイエンド戦略は業界に奇妙な力関係をもたらした。完成品と部品の両方を手がける独特のビジネスによって、Samsungはほとんどの大手企業にとって、ライバルであると同時に同盟者となったのである。
Intelとの密接な関係はそのよい例だ。Intelがソウルに開設した新しい研究所の所長S.K. Leeは、デジタルホーム分野での両社の連携を促進するために、3カ月前にSamsungから移籍した人物だ。その一方で、Samsungは昨年、フラッシュメモリ市場でIntelを抜き、Nokiaの携帯電話チップや、HPの携帯端末向けチップの生産契約をIntelから奪い取っている。
Samsungの広報担当者が持っているのは初代のSamsung製携帯電話と現在のモデルだ。(写真:Michael Kanellos)
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IntelはIntelで、プロジェクションテレビ用のチップを開発し、テレビ市場に参入しようとしている。しかし、Texas Instrumentsと提携するSamsungは首をかしげる。
「(Intelの)LCOS(liquid crystal on silicon)の普及に必要な技術と市場はまだないのではないか」と、SamsungのDigital Media Business担当バイスプレジデントDavid Steelはいう。
ソニーとのパートナーシップも複雑だ。両社は共同で韓国に液晶ディスプレイ工場を建設したが、この工場はシリコンコートされた大型のガラスを毎月6万枚(46インチテレビに換算して毎月36万台)生産できる能力を持つ。しかし、両社はそれでもこの市場ではライバルの関係にある。
Microsoftも同盟相手の1つだが、韓国政府はWindowsの競合OSであるLinuxを推進しているし、Samsungは複数のオープンソース技術に触手を伸ばしている。
Samsungのもう1つの特徴は自社生産だ。大半のハードウェアメーカーと異なり、Samsungは完成品だけでなく、たいていの部品も自社で生産している。コレに関して、生産量が多いときは、外注するより自社で生産した方が安くつくと同社の幹部は説明している。
Samsungは4つの大陸に18のグループ生産会社を持ち、9つの研究所を擁している。アジアの生産施設の多くは従業員用の寮を併設し、従業員のほとんどは高卒の若者だ。モバイルセールス&マーケティング担当バイスプレジデントのIke Chungによれば、韓国東部の工業都市Gumiにある工場では、7秒に1台のペースで携帯電話が生産されているという。
部品を社内で生産すれば、グループ内のほかの製品部門に部品を安価に供給することもできると情報筋は指摘する。社内で部品や製品を融通しているという指摘をSamsungは否定するが、国内の多くの関係者によれば、政府が企業慣行の改革に本腰を入れているにもかかわらず、財閥による私利的な内部取引は今でも広範に行われているという。
それだけではない。グループ企業が密接に連携することによって、研究の成果やデザインを幅広い部門や製品ラインで共有することができるというメリットもある。実際、こうした関係がなければ、傑出した新商品を毎年発表するという目標をSamsungが達成することはできないだろう。同社はこのプロセスを利用して、閉じたままでも電話をかけてきた相手が分かる、世界初の外部画面付き携帯電話を開発した。また、新しいタイプの融合製品も次々と登場している。心拍数モニタとボイスレコーダが付いたMP3プレイヤーはその1例だ。
ソウルの江南区にある結婚式場Samsung Wedding Chapel。Samsungとは縁もゆかりもない施設だが、集客目的で同社の名前を利用している。(写真:Sungah Kim) |
Samsungでは、部品メーカーと完成品メーカーという二面性のおかげで、あるときはブランド家電を生産し、それができないときは他社と生産契約を結ぶというユニークな経営が可能となった。たとえば、Dellやその他のメーカーにとって、Samsungは液晶モニタの主要なサプライヤーだ。また、同社は北米市場でのPC販売に失敗したが、代わりに米国ブランド向けに無線機能付き軽量ノートPCを生産している。
「LGとSamsungのデザインは非常に革新的だ」とIntelのモバイルプラットフォーム部門担当バイスプレジデント、Anand Chandrasekherはいう。LGとSamsungを含む7つのアジア系メーカーは、今年年末までに全世界で販売されるノートPCの約80%を生産すると見られている。
デザイン重視の戦略を掲げたのはSamsungのKun Hee Lee会長だった。当時のSamsungには180人のデザイナーがいたが、現在はロンドン、ソウル、サンフランシスコなどに合計441人のデザイナーを抱えている。
エレクトロニクス部門のCEOをはじめとする幹部社員はデザイン委員会の会合にも定期的に出席している。Samsungはこれまでに7つのデザイン賞を受賞している。
「ディスプレイはいわば電子の家具だ。リビングルームに溶け込むデザインでなければならない」と同社の主席デザイナーSangyeon Leeはいう。
Samsungにとって、次の大きな目標は消費者に選ばれるブランドになることだ。Kimはそのための戦術を明らかにしようとしないが、新しいブランドキャンペーンを検討していることは認めた。
また、ブランド戦略と平行して、デジタルホームにも力を入れていくという。韓国ではこれまでに、いわゆるデジタルホームが約6000戸販売されているが、Samsungは米国、スペイン、カナダ、及びオーストラリアでも試験販売を行っている。
デジタルホームが成功するかどうかは、同社が相互運用性と使いやすさをどれだけ改善できるかにかかっているとアナリストはいう。しかし、その他の最新技術と同様に、他社にとってはSamsungの初期のリードを覆すことは難しいだろう。
「もし家電の世界に『宇宙開発競争』があるとすれば、先頭を走っているのはまちがいなくSamsungだ」とThe Envisioneering GroupのDohertyは語った。
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